(人間界)聖女セシリア奪還作戦①
その頃、人間界。
王城の執務室にて。
第一王子ナイジェルと魔法使いヘス、聖騎士フォードは額を突き合わせ深刻に話し合いを重ねていた。
「一刻も早くセシリアを奪還せねば、いかに気高く微笑みをもって私たちを守ってくれたといえ、きっと彼女は心細さに泣いているだろう」
フォードは内心で苦笑した。
(いや、絶対泣いてないです。あんだけ容赦なく俺たちに攻撃魔法叩きこんで意気揚々と残ったくらいだ、むしろきっと、今頃大喜びで高笑い)
「その通りです。セシリアは強く誇り高き聖女ですが、一人の繊細で心根の美しい少女ですから」
フォードは内心で失笑した。
(優秀と評判の第一王子と王国お抱えの天才魔法使い、どっちも見る目なさすぎだろ。この国の未来大丈夫???)
だって、フォードは知っている。セシリアほど「繊細」と対極にいる生き物はいない。確かに見た目は儚く庇護欲そそる美少女だが、心根は美しいどころか根腐れしている。
とはいえ、現状で彼女の本性を知るのは自分だけだということを思えば、「見る目がない」としてしまうのはいささか乱暴すぎるかもしれない。
(そうだよな。セシリア様の擬態・猫かぶりがうますぎるんだよな……)
おかげでいつだって胃を痛める羽目になるのはフォードなのだ。
「しかし、私たちはセシリアの力を借りてやっと魔王城へ辿り着いた。それを思えば、闇雲に乗り込んでもあの場所へもう一度辿り着くことすらできないだろう」
ナイジェルの言うことはもっともだった。フォードとしてはどれだけ自分が疲弊しようと、傷つこうと、結局のところセシリアがいるのだから魔王討伐は必ず成功すると思っていた。それはもう1億%討伐できると確信していた。疲弊も怪我もセシリアの気分によるもので、討伐達成への可能性を示すものではないのだし。
それなのに、達成できなかった。セシリアに魔王を討伐する気が微塵もなかったからだ。
(最初は一応、予定通りに討伐する気だったはずなのに。あの人でなし聖女、いつ気が変わったのやら……!)
ついでに言うと、フォードはこの作戦会議ほど意味のないことはないと思っている。セシリアの奪還など絶対に無理だ。本人に帰る気がないのだから。逆に言えばあの台風のような人が帰ってくる時は本人が帰りたくなった時なので、本当のところは放っておけばいいだけなのだ。
しかしそれを口にすることはできなくてとんでもなくもどかしい……!
「……ひとつだけ、希望があります」
意を決したような口火を切ったのはヘスだった。
「もうすぐ、目覚めるときだったはず」
その言葉にナイジェルがハッと息を呑む。
「聖獣か!」
レクセル王国が崇める聖獣は、月の巡りに合わせて眠る。20年前、何百年に一度おとずれるという珍しい月の巡りとともに深い眠りについていた。
月の巡りを数える呪い師によると、その眠りが終わり聖獣目覚めるのは間もなくとのことだった。
「聖女を愛するという聖獣なら、きっと力を貸してくれるはず……!それに、魔族にも対抗できるだろう」
「僕もそう思います。聖獣様が目覚められたらお願いに参りましょう!」
「…………」
やっと見えた希望の光に心を照らされたナイジェルとヘスは、気まずそうに黙ったままでいるフォードには気づかない。
(なんか嫌な予感がする……いや、さすがに聖獣様が動かれることでなにかまずいことが起こるなんてことはないよな……?)
不幸にも、フォードが魔界でのセシリアの発言や振る舞いを知る術はなかった。
『ラフェオン様。あなたが望むならこの私が人間界に攻め入るお手伝いをしましょう!それともまずは人が崇める聖獣を捕獲してきてペットにでもいたしましょうか?』
もしも知っていたならば、湧きあがった嫌な予感を見ないふりなどしなかっただろう。
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数日後、聖獣は目を覚ました。
ナイジェルとヘスの必死の訴えを耳にした聖獣は忌々しそうに大きな咆哮を上げると、魔界のある方角へ向かって消えていった。
「これで、きっとセシリアも無事に……」
本来、いかに王族であるナイジェルや、特別な魔法使いであるヘスといえど、聖獣が会うことはない。
セシリアを助けてもらうべく無理をしたナイジェルとヘスはそれからしばらく寝込むことになった。
フォードは胸騒ぎを止められない。
(あ、あれ〜?なんで俺こんなに嫌な予感がし続けてるんだ?絶対大丈夫だろ。さすがに大丈夫だろ。なのに気を抜くとつい祈っちゃってる自分がいるな。
……聖獣様が、無事でありますよーに……)
ハッ!これが小説などによく出てくる、いわゆるフラグ……!?
などと思いながらもやめられず、フォードは必死に祈り続けた。
ちなみにこうなってからフォードがセシリアの無事を祈ったことはない。一度もない。
「魔族の皆さん、セシリア様をどうかどうか怒らせないでください……最悪世界滅ぶ」と祈ったことはあるけれど──。