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聖女、久しぶりに対面する



「セシリア様……もうやめてください……!」


 人間がやって来たと聞いて出向いてみたら、そこにいたのは久しぶりに見るナイジェル、ヘス、フォードの三人で、フォードがそう言って泣いていた。

 あらら、これはなんだかさっき想像したとおりの光景ね??


 私ってばついに予知能力まで芽生えてしまったのかしら?

 なーんて、フォードが私の想像を超える行動を起こさないだけでしかないけれど。


「そうだ、セシリア!私達が助けに来た!もう自分を犠牲にするなどということはやめてくれ!」

「セシリア、一緒に帰ろう!」


 ナイジェルとヘスもいる。なんだかすごく感情的になっているわね。


 うーん、ナイジェルとヘスは私に「自分を犠牲にすることをやめてくれ」と言っているけれど、フォードは違うわね。きっと私の意図を分かった上で「これ以上振り回さないでほしい」と言っている顔だわ。うん、あの苦々しい表情は間違いない。昔からよく見慣れた顔だもの。


 それならばここに来る前にナイジェル達を止めてくれればよかったのに。まったく、役に立たない護衛騎士だわ。

 それにしても、私が手を貸してもボロボロになりながらやっと魔王城までたどり着いた三人が、私抜きでどうやってここまで来ることができたのかしら?

 結界がなかったとしても無理だと思うのだけれど……。


「セシリア、これは一体?」

「!ラ、ラフェオン様……!」


 私としたことが!三人がどうやってここまで来たのか考えることに集中していたとはいえ、あろうことかラフェオン様がすぐ側に来るまで気が付かないなんて!

 ああ、それに正直心の準備もできていなかった。数日ぶりにお会いするというのに……。


 自分でも驚いたのだけれど、初めて自分の方向性に自信を失って、咄嗟にラフェオン様の目を見ることが出来なかった。逸らした視線を泳がすのも情けない気がして、咄嗟にフォードの方を見る。


 目が合ったフォードはさすが長年一緒にいただけあって、なんとなく私の様子がおかしいことに気が付いたらしい。しかし感情の機微まではくみ取れないのか、「今度は何を企んでいるんですか?」と言わんばかりで。

 失礼な護衛騎士ね!恋する乙女になんて目を向けているのかしら!?


 睨みつけると、途端に挙動不審になるフォード。

 ふん、しばらく会わない間に少しは成長しているかと思っていたけれど、全く変わっていないようね。


 ──そんな私たちのやり取りを見て、ラフェオン様がどんな表情を浮かべているかに、私は全く気が付いていなかった……。


 そんな私よりももっとこの空気を読めていないのがナイジェルとヘスというわけである。


「セシリア、もう大丈夫だ。私が君を助ける!この……命に代えても!」

「僕もいるよ!もう二度とセシリアを一人になんてさせないから……!」


 あああ~~。すっごく面倒くさい!助けられないといけない状況になんて全くなっていないし、魔界に来てから一人になった時間なんてほとんどない。最近は引きこもっていたけれど、みんなかわるがわる私の様子を見に来ていたのも気づいていたし。


 ナイジェルもヘスも、とんだ的外れだ。

 うんざりした気持ちを隠しきれなくなりそうな私に向かって、フォードがぶんぶんと首を振っている。それはさすがにやめてあげて!というところだろうか。


 しかし、いつまでもこんなことをされていては私も困る。ラフェオン様の迷惑になってしまうでしょうが!


「まさか、ナイジェルたちが私のためにここまでするなんて……」


 ナイジェル達だって自分の命が大事だし、自分の命と人間界全ての平和のためならば私のことは泣く泣く諦めてくれると考えていたのだけれど、どうやら私は読み間違えていたのかもしれない。

 ……あら、私はラフェオン様のこと以外で間違えたことはないと思っていたけれど、そうでもなかったのかしら。

 人の心、恋とは難しいものね……。

 なんて、つい感慨深くなってしまう。私は彼らの私の想う気持ちの重さをはかり違えていたのだわ。


「人間界に戻るべきなのかしら……」


 こんなことになるのなら、あの時フォード達だけ送り返すのではなく私も一緒に一度人間界に戻り、死の偽装でもして魔界に戻った方がことはスムーズに進んだのではないだろうか。


 悲劇のヒロインぶって犠牲になる(ふりをする)方が演出として美しいと思ったのだけれど。


(あと、一秒だってラフェオン様と離れたくなくって……)


 あの時の私はラフェオン様に落雷が落ちるかの如く恋に落ちたものだから、冷静な判断ができていなかったのかもしれないわね。


 最近の考え事も相まって、つい深いため息が口から漏れ出る。


 ──人生で珍しく余裕をなくした私は、そんな私の悩める独り言を聞いて、ラフェオン様がぴくりと肩を震わせたことにもまた、気づいていなかった。



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