魔王、うろたえる
しばらく更新止まってしまっていてすみません……!
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魔王ラフェオンの前で、聖女セシリアが目をキラキラと輝かせている。あまりの圧に、ラフェオンはたまらずうめき声をあげた。
「うっ……」
「ラフェオン様、ありがとうございます!私のことを心配して汗をにじませながら駆けつけてくださるなんて、本当にうれしいです好き!」
「…………」
……言えない。言えるわけがない。
セシリアが魔族の騎士に傷つけられるのが心配だったわけではなく、むしろその逆。先日セシリアを怒らせたあの騎士が、今度こそセシリアにその存在を消し飛ばされ、夜空の星のひとつにされてしまうのではないかと冷や汗をかきながら駆けつけたなどと。ラフェオンに言えるわけがなかった。
結局ラフェオンはセシリアに向かってひきつるほほ笑みを浮かべ、なんとか言葉を絞り出した。
「…………お前が無事ならそれでいい」
「そ、それはもはや求愛といっても過言ではないお言葉!感激ですわラフェオン様~~~~~~!」
◆◇◆◇
「それで、いたたまれなくなってすぐに戻ってこられたんですか?せっかくなのですからセシリア様と一緒にお茶でもしてきてくださいといったのに!」
「あの空気の中でそんなのんきなことができるか!」
呆れたようなロッドに、ラフェオンは思わず声を荒らげる。
つい最近まで自分を忌まわしそうに睨みつけるばかりだった弟イルキズは羨望の眼差しでこちらを見てくるし、そのイルキズに抑えつけられた騎士はぶるぶると体を震わせ、次の瞬間にも泡を吹いて気絶してもおかしくない雰囲気だった。
その異様な雰囲気は、意外と常識人なラフェオンにとって控えめに言って地獄でしかない。
しかし何よりも辛かったのは大歓喜しているセシリアである。
心配していたのはお前ではなくその騎士だよ、という真実は闇に葬ることにした。仮に口にしていたなら、その瞬間に騎士は理不尽な怒りによって本気で星にされそうだし。
一瞬その光景を想像してしまい、ラフェオンは身震いした。
ロッドは首をかしげる。
「それにしても、いくらお優しく平和主義者でいらっしゃるとはいえ、ラフェオン様がただのいち騎士をそこまで心配なさるとは意外でした。まさか私に命じるでもなく、自ら慌てて離宮まで駆けつけるとは」
「ぐっ……いや、よく考えてみろ!セシリアはおかしいだろうが!あいつなら本気で騎士の一人や二人消しかねん!せっかくセシリアは魔族の中にも心棒者を増やしているというのに、己の感情で魔族を一人消し炭にしたなどということになれば、彼女に向けられている好意が恐怖や嫌悪に代わる可能性がないとは言い切れないだろうが!」
苦々しく表情を歪めて吐き捨てるラフェオンの様子に、ロッドはハッと息をのむ。
「ラフェオン様……!つまり、セシリア様が魔族たちから悪く思われるのが耐えられなかったと……!?」
「は?」
「さっきは否定されていましたが、それはつまり、やはりセシリア様のことが心配だったからで間違いないのでは!?もはや愛といっても過言ではない……!」
そうとは知らず、自分はなんと無粋なことを言ってしまったのか。ロッドは深く反省した。
ラフェオンは頭を抱える。
「いやいやいや、なんでそうなる!?というかお前までセシリアのようなことを言い出すのはやめろ!もはや愛ってなんだ!過言どころか事実の捏造でしかないだろうが!」
即座に迷いなく否定したにも関わらず、ロッドは「自分はわかっていますよ」と言わんばかりの顔で深くうなずいて見せる。それにもどかしく思うラフェオン。こいつ、自分の側近のくせに何もわかっていない。
「俺がセシリアを心配するわけがないだろうが!セシリアだぞ!?あいつのことが心配なのではなく、魔族たちが人間であるセシリアに悪感情を抱いてしまっては最悪人間との軋轢が深まり、俺の望む平和な世がまた遠のいてしまうかもしれないと危惧しているだけだ!」
「ええ、ええ!はい、そうですとも!」
「~~~~~おい、ロッド!にやにやと笑うな!」
そう、ラフェオンはセシリアが心配なのではない。セシリアをきっかけとして、さらに人間と魔族との間にある溝が深まることが心配なのだ。
この時ラフェオンとしては本気でそう思っていた。まさか自分が、害そうと頑張ったって誰にも害せそうにないほど強いセシリアのことを、実は心配してしまっているなどとは自分自身でも気づかずに……。
 




