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聖女、祝福の鐘の音を聞く

 


 はああ、ラフェオン様とのデート、すごく楽しかったわよね。


「セシリア様!本当に申し訳ありません!」


 お名前を呼んでいただいちゃったし……うふふ!

 あのデートで6%くらいはラフェオン様の中のセシリア好き度が上がったのじゃあないかしら?


「この愚か者にも僕の方からきちんと分からせておきましたので!」


 私がぎゅっとくっついても嫌がらなかったわ!「あーん」は残念ながら拒絶されてしまったけれど、あれはひょっとして恥ずかしさのあまり受け入れることが出来なかっただけの可能性もあるのでは??

 つまり少し私のことを好きって、こと……!?きゃー!


「これからも僕が責任を持って痛めつけます!なので、セシリア様はどうか僕のことを代わりに痛めつけてください!!」


「ねえ、ちょっと。うるさいのだけれど」


 さっきから、魔王弟イルキズがうるさくて仕方がない。せっかくいい気分でラフェオン様とのラブラブイチャイチャデートを思い出しているのに、ぎゃあぎゃあとわめいてなんなのかしら。

 私がラフェオン様との甘い思い出に浸る時間は、つまり私とラフェオン様の時間。それを邪魔するなんていい度胸をしているわよね。


「はあっ!セシリア様の冷たい眼差し……!」


 イルキズは胸を押さえ、恍惚の表情を浮かべている。こいつは何をどうしても喜ぶから面倒くさいのよね。本当に幸せそうだこと。


 気持ちの悪いイルキズは置いておいて、その隣でイルキズに頭を床にめり込む勢いで押さえつけられている男に視線を向ける。

 と、その途端にイルキズがその男を魔力で威圧した。


「この……俺様を差し置いてセシリア様の麗しい瞳にその身を映していただくとは……」


「ちょっと、大人しくしていないなら視界から消えてくれるかしら?」


「はううっ……!」


 もうこの変態にはため息しか出ない。ラフェオン様の弟でなければ永遠に魔界から追放してもいいくらいなのだけれど。ラフェオン様の存在に感謝することね!


 さて、気を取り直してイルキズの横の男──私とラフェオン様のデートを邪魔したあほ面騎士を見る。


 あほ面騎士は顔を真っ青にしてブルブルと震えていた。


「はあ、あなたは一体何をしに来たのかしら?」


「じ、自分は……セシリア様に、謝罪を……」


 いや、とてもじゃないけれど反省して許しを請うために来たような顔をしていない。むしろ死ぬほど来たくなかったという気持ちが透けて見えている。今すぐにでも帰りたそうだ。

 隣で得意げにしているイルキズを見るに、どうやら私に謝罪しろとでも言われて無理やり引きずって来られたようね。


 ノンナの淹れた紅茶を飲みながら、一体どうしたものかと考える。

 こんな時でもノンナは私の意を汲んで淡々と職務をこなすから、好感が持てるわね。さすが私のメイドだわ。


 どうでもいい存在のどうでもいい謝罪なんて心底どうでもよすぎてどうにもしようがないのよね。

 うんざりしていると、何やらバタバタと廊下の方が騒がしくなり始めた。


 まさか、またどうでもいい存在が押しかけて来たんじゃあないでしょうね──

 勢いよくドアが開く。ノックもせず、私が許可を出してもいないのに飛び込んでくるなんて、躾けのなっていない魔族もいたものだわ。

 そう思った瞬間、私は自分の目を疑った。


「セシリア!」


「ラ、ラ、ラフェオン様!?!?!?」


 そう、そこにいたのはまさかのラフェオン様!

 世界一どうでもよくない存在が来てくださったわ!?!?!?!?


 ラフェオン様がこの離宮に自らやってくるなど今まで一度もなかったのに!

 いいえ、待って。まさか、これは夢?


「痛っ!でへへへへ!」


 側にいたイルキズをぶん殴ってみたけれど、痛がって(よろこんで)いる。どうやらこれは現実のようだわ……!?


 慌ててラフェオン様に駆け寄る。最短距離で急いだものだから、途中であほ面騎士の手をうっかり踏んづけてしまったけれど事故だから仕方がないわよね。「うっ」なんて呻き声をあげていたけれど聞こえなかったことにしておこう。今はそれどころじゃないので。


「ラフェオン様、一体どうなさったのです?あ、もちろん、何もなくともラフェオン様ならいつだって会いに来てくださると嬉しいのですけど。それにしてもなんだか慌てているように見えますが、何かありましたか?」


 もしもラフェオン様のお心を煩わせる何かがあるのならば、この私がすぐに取り除いてあげたい!


 気になることを聞きながらさりげなくハンカチを取り出し、少しだけ浮かんでいる額の汗をそっと拭いてあげる。うふふ、これはもはや妻の行為。既成事実その1が出来てしまったわね!


「……いや、君を街で侮辱した騎士がこの離宮を訪れたと聞いて……」


 どこかバツの悪そうなラフェオン様は室内にいるあほ面騎士に視線を向ける。びくりと肩を揺らすあほ面騎士。

 しかし、今の私にはそんなことはどうでもいい。


「ラフェオン様、ひょっとして、私のことを心配してこんなにも慌てて駆けつけてくださったんですか……!?」


 なんってことなの……!これは、愛……!愛に違いない!


 頭の中でリンゴンリンゴンと祝福の鐘が鳴り響く──。


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