聖女、うきうきわくわく魔王様とデート
有能なロッドの手配した馬車が到着したのはなんとも可愛らしいカフェだった。
ラフェオン様はこのようなカフェにあまりなじみがないのか戸惑っているように見えたため、私が2人分のケーキと飲み物を注文する。
すぐにやってきた苺のショートケーキの私の分を一口フォークに取り、そっと差し出した。
「はいラフェオン様、あーん!」
「……お前は何をしているんだ」
「食事をする際に相手の口元に食べ物を持っていき、食べさせてあげる甘い恋愛行動、もしくは愛ゆえに『食べる』という相手の生命活動を自らの手で遂行させてほしいという甘い欲求による奉仕行為ですわ!食べることは生きることですもの」
「あーんの説明を求めているんじゃない!おまけに説明の癖が強い!」
結局、「やめんか!」と窘められて「あーん」を遂行することは叶わなかった。
ああ、つれないラフェオン様!
さらに20%くらい私のことを好きになったらさせてくれるかしら?
けれど、こうしてデートに来てくださっただけでも良しとしなければ。
隣に寄り添って歩くのを許されたということは、きっと私のことを可愛いとは思っているはずよ!
「ろくでもないことを考えていそうだな……」
「ラフェオン様のことを考えています好き!」
呆れたようにため息をついたラフェオン様は紅茶に手を伸ばす。
「……美味いな」
疲れを癒すようなその顔ににんまりする。
そうでしょうそうでしょう!私、ラフェオン様の好みなら知り尽くしていますからね!
ラフェオン様への愛に抜かりはない。
メニューの中でも一番気に入りそうなものを選んで注文したのだから、これはもはや私がラフェオン様の舌を唸らせたと言っても過言ではないわね。
「それで、次はどうするんだ?」
意外なことに、カフェを出てすぐにラフェオン様は腕を差し出しながらそう尋ねてくれた。
これは……エスコートだわ!
うっかり気が変わってしまわないうちにサッ!とその腕に手を添え、ぴったりと体をくっつける。
「近い!」
「いいえ、気のせいですわ!きっと私が側にいることをラフェオン様の本能が意識して近いように感じているだけです!」
ラフェオン様は苦虫を嚙み潰したような顔をしたけれど、面倒に思ったのか、ちょっとくらいは図星だったのか、それ以上何も言わなかった。半分くらい図星であれ。
こういうのは言ったもん勝ちである。そうして何度も何度もそうなのだ!と言われていれば、脳みそが勝手に「そうだったのかも?」と勘違いし始めるものなのだ。
小さなことからコツコツと……ラフェオン様の脳みそを洗脳して恋心に火をつけるわよ!
「次は食べ歩きをしに行きましょう!」
「食べ歩き……?聖女らしからぬことをしたがるんだな」
きっとラフェオン様は正統派聖女のイメージで言ってるのだわと気づく。
確かに、普通聖女は食べ歩きはしないでしょうね。
けれど、私はおとなしく神殿や王城だけで優雅に過ごすなんて退屈で、一人で抜け出しては街で遊んでいたのだ。
聖魔法を応用すれば幻影と変装で全くの別人になるなど容易いことだしね。
フォードが「頼むから1人はやめてくれ!」とあんまりうるさいから、途中からはフォードを呼びつけるようにはなったけど。
「私、好きな人には自分の全てを曝け出したいタイプですので。繕った姿だけで好かれてもそれは私ではないですからね」
まるっと丸ごと私の全てを愛してほしいという強欲全開の願望である。
「……そうか」
それでは行きましょうと寄り添って歩くことのなんて幸せなことか!
こっそり聖魔法で周囲を探り、わざと人気のない路地に迷い込んでみる。
ああ幸せ!永遠にこうして2人でイチャイチャしていたい。
そう思っていたのに、すぐにぶち壊されることになる。
「魔王陛下!あなたが腑抜けているから、くだらない下等な人間の女などがそうして増長するんです!我らが魔族が何よりも優れた種族だとどうして思い知らせてやらないんですか!」
目を吊り上げ、いきりたった男が飛び出してきた。
その格好を見るに、騎士かしら?なかなか位が高そうなので、魔王軍の上位にでも位置している者かもしれない。
私のラフェオン様を腑抜けなどと罵倒し、ラフェオン様の未来の伴侶(予定)である私を侮辱し、ラフェオン様と私の甘く刺激的なデートの邪魔をするなど──
「ラフェオン様、星はお好きですか?」
「は?」
「ほら、夜空に輝く無数の星ってとても美しいじゃありませんか」
「はあ、まあ、そうだな。嫌いではない」
「わかりました」
「?」
いまだにぎゃあぎゃあと顔を歪めてラフェオン様を口汚く罵る騎士の前に進み出る。
「ラフェオン様、それでは今夜からこの私が星の数を1つばかり増やしてみせますわ!」
「待て待て待て!?」
──ポカンとしているあほ面の騎士、お前は万死に値する。




