彼女の自慢のGカップがちっぱいになっていた件 〜それでも私を愛してくれますか?〜
とある冬の朝、俺・稲田輝は世にも不思議な出来事を体験することになる。
この日もいつものように恋人の朝宮美菜と登校するべく、俺は待ち合わせ場所の駅の改札前で彼女を待っていた。
こうも寒いと、体のあちこちの動きが鈍くなってしまう。
特に指先だ。スマホを操作しようとしても、思うようにフリックが出来ない。
以前美菜に『愛してる』というメッセージを送ろうとしたところ、誤って『愛消える』と送ってしまった時は、マジで焦った。実際、破局寸前までいったからな。
そんな最悪の結果に繋がりかねないミスを犯してしまうのも、冬の寒さが原因である。
手が温まっていれば、入力ミスが起きる可能性もゼロに等しいのだ。
だから今日は、美菜に手を温めて貰おう。彼女と手を繋ごう。
美菜を待ちながら、俺は無理矢理な理屈で自身の下心を正当化するのだった。
美菜と手を繋いで登校したら、きっと沢山の男子生徒たちから嫉妬の視線を向けられることだろう。それだけ男子からの美菜の人気は凄い。
しかし人気がある=学校一の美少女という等式が、必ずしも成り立つわけではない。
美菜は確かに可愛いが、せいぜい上の下と言ったところ。クラスでも辛うじて五指に入るかどうかというレベルだ。
それなのに、美菜が校内一の美少女にも負けず劣らずの人気を誇るのは、なぜなのか?
その理由は、女性特有の武器にあった。――胸である。
Bカップ〜Cカップが平均とされる、我が校女子のバストサイズ。対して美菜の大きさは……まさかのGカップだった。
歩けば揺れる。走ればもっと揺れる。ジャンプしようものなら、それは最早眼福と呼ぶに相応しい。そんなGカップ。
大きいのはわかるけど、具体的にどのくらい大きいのか?
美菜と付き合いたての頃、俺は興味本位で独自に調査をしたことがあった。
ネットの文章や画像だけでは、いまいち実感が湧かない。やはり実際にGカップのブラジャーを見てみるべきだな。
そう思った俺は近所の衣類販売店を訪れて、そして驚いた。その店の下着コーナーでは……Gカップのブラジャーは大きすぎて置いていなかったのだ。
店員さんに「Gカップのブラジャーはないんですか?」と尋ねてみたところ、怪訝そうな顔をしながらも答えてくれた。
「需要が多くないので、入荷しておりません」、と。
成る程。つまりGカップというのは、貴重かつ希少というわけか。
美菜の乳がヤベェと裏付けるエピソードは、他にもある。
とある女子生徒に聞いた話だと、身体測定で美菜の胸囲のサイズを耳にするなり、周囲からスタンディングオベーションが起こったらしい。まさに脅威の大きさだったとか(胸囲だけに)。
勿論俺は、美菜の胸目当てで付き合っているわけじゃない。
可愛いところや明るいところ、優しいところなどなど。彼女の良さは、数え切れないくらいある。
巨乳であることは、魅力の一つに過ぎない。
だけど俺も思春期の男だ。全く意識しないというわけには、当然いかなくて。
まだ揉んだことはないけれど、いつかは彼氏特権を利用してその恩恵にあやかりたいと思っている。絶対手のひらが埋もれると思うな。
閑話休題。
ソシャゲをしながら、美菜を待つことおよそ5分。小走りをしながら、彼女は待ち合わせ場所にやって来た。
「ハァハァ……お待たせ」
「電車の時間まではまだ余裕があるし、全く問題な……」
応えながら美菜に顔を向けて、そして俺は驚いた。どのくらい驚いたのかというと、危うくスマホを落としかけた。
美菜の代名詞ともいえるGカップが……見る影もなくなってしまっていたのだ。
厚着をしているせいで、着痩せしているだけ? いいや。美菜の胸は、コートを着た程度で大人しくなるような代物じゃない。
現に昨日までは、その存在を主張し続けていた。
俺は美菜の胸を指差しながら、尋ねる。
「お前、その胸……どうしたんだよ?」
「あぁ、これ? ……正直言って、わからない。朝起きたら、胸が小さくなっていたの」
胸が小さくなる!? そんな現象が、起こり得るのか!?
驚愕のあまり、俺は言葉を失っていた。
「そんな顔しないでよ。私だって驚いているし、その……ショックなんだから」
「えっ? あぁ、ごめん。……因みに体調は大丈夫なのか? 胸が小さくなったせいで、どこか違和感があるとかはないのか?」
「胸が小さくなった以外は、何とも。だから学校には行けると思って」
見たところ、顔色が悪い様子はない。
息が切れているのは、走って駅まで来たせいだろう。だから胸が小さくなったのとは、関係ない筈だ。
一先ずは、経過観察をするべきか。もしかしたら、明日の朝には胸が戻っているかもしれないし。
「それじゃあ、学校に行くとしようか」
鞄から定期券を取り出した俺だったが、ふと美菜に「ねぇ」と呼び止められた。
「一つ聞いても良いかしら?」
そんな前置きをした後、美菜は恐る恐る尋ねてくる。
「胸が小さくなっても……私のこと好きでいてくれる?」
「そんなの、当たり前だろ」
美菜の良さは、決して胸だけじゃない。
俺は笑顔で、大きく頷くのだった。
◇
俺と美菜は同じクラスではあるものの、互いの席は離れている。
なので授業中も机をくっつけてイチャイチャすることは出来ず、朝も教室に着くなり「またね」と別れるというのが通例だった。
「それじゃあ、輝くん。また昼休みに」
「おう」
自分の席に鞄を置いた俺は、すぐさま後ろの席に座る親友・前島雄太に話しかけた。
「おはよう、雄太」
「おはよう、輝。今日も朝からお熱いね」
「あぁ、そうだな。俺と美菜は、いつだってラブラブだな。……ところでその美菜について相談があるんだが、良いか?」
「うん、構わないよ」
俺は周囲を確認する。
始業時間が近いこともあり、既にほとんどの生徒が登校している。当然のことだが、その中には女子生徒の姿もあった。
「……ここではちょっと。場所を変えよう」
そう言って、俺は雄太を男子トイレに連れ出した。
ここならば、俺の相談事を女子に盗み聞きされる心配は100パーセントあり得ない。
「で、朝からいきなりトイレに連れて来て、何なんだい? 連れションが目的ってわけじゃないんだろ?」
俺は満を持して、雄太に相談事を打ち明けた。
「どうしよう……美菜のおっぱいがなくなってるんだけど!」
白状しよう。
美菜の前では平静を装っていたけれど、実のところ俺はめちゃくちゃ動揺している。
だって、美菜の自慢のGカップがちっぱいになっていたんだぞ? 平常心を保てるわけがない。
「あぁ。あれには、凄く驚いたよ。見事なまでの、ぺったんこだったよね」
俺は登校してすぐに、雄太に話しかけた。そんな彼ですら、美菜の胸に驚く時間があったのだ。
少なくともクラスメイトは全員、美菜の異変に気が付いているだろう。
雄太はスマホを取り出す。
彼が開いたのは、クラスの男子だけが参加しているチャットだった。
「男子たちからは、早くも色々な憶測が飛んでいるよ。今一番有力なのは、「朝宮さんパッド説」かな」
「それはないだろ? 美菜の胸が天然ものなのは、他の女子たちが証言してくれる」
「だとしたら、「稲田輝が朝宮さんの母乳を吸い尽くした説」の方が濃厚というわけか」
「そっちの方が現実的にあり得ないだろ……」
クラスメイトの男子には、バカしかいないのか?
「それはさておき」。言いながら、雄太はスマホをポケットにしまう。
「実際問題朝宮さんの胸がどうして小さくなったのかはわからないけど、どうしてそれが輝の相談事になるんだい?」
「だって彼女の胸が小さくなったんだぞ? 普通驚くだろ?」
「うん、驚くよ。だけど、悩みにはならない。それとも……輝は朝宮さんの胸に惹かれて、付き合ったのかな?」
「それは、違う」
わからないことの多い現状だけど、それだけは違うと断言出来た。
「だったら、そう悲観することもないじゃないか。朝宮さんの胸は小さくなったけど、それ以外は何も変わっていない。輝は朝宮さんのことが好きで、朝宮さんも輝のことが好き。それで良いじゃないか」
「……そうだな」
雄太の言う通りだ。
いきなりの出来事で動揺したけれど、よくよく考えてみたら何が変わったわけじゃない。だから初めから、悩む必要なんて微塵もなくて。
でも、雄太に相談して良かった。彼に話したからこそ、落ち着きを取り戻すことが出来た。
「今日の放課後、美菜をショッピングにでも連れて行くとしようかな。胸が小さくなったから、下着を新調しないといけないだろ?」
「うん、普通にセクハラだね。でも、デートに誘うという心意気は良いと思うよ。愛されてるとわかって、朝宮さんも安心するだろうし」
キーンコーンカーンコーン。予鈴が鳴る。
遅刻するわけにはいかないので、俺たちは急いで教室に戻ることにした。
トイレを出たところで、「あっ、そうだ」と雄太が思い出したように言う。
「僕の元カノで、Fカップの子がいてね。付き合っていた頃、一度だけ彼女の胸を揉んだことがあるんだけど……巨乳って、凄いよ。男なら、一度は揉んでみるべきだ」
このタイミングで言うべきことか、それ!?
◇
放課後、俺は美菜を連れてショッピングモールに来ていた。
「輝くんが放課後デートに誘ってくれるなんて、珍しいこともあるものね。いつもは「お金が勿体ない」って言って、お互いの家でしか遊ばないのに」
「美菜に元気になって貰う為だ。俺の財布を空っぽにする程度でお前の笑顔が戻るなら、安いものだろう?」
「そっ、そうかしら?」
多少格好は付けたが、今の言葉が本心であることに変わりはない。
だからこんな風に美菜の照れた顔を見る資格も、十分あると思う。
「それで、どのお店に行くつもりなのかしら?」
「いや、決めていない」
「はあ?」
「美菜の見たいものを見ようと思ってな。だから逆に聞こう。どのお店に行きたい?」
俺がデート場所としてショッピングモールを選んだ理由は、これだ。
本屋にアパレルショップにレストランなどなど。あらゆる種類のお店が揃っているショッピングモールなら、間違いなく美菜の希望に応えられると考えたのだ。
良かれと思っての選択だったが、美菜は思ったよりも喜んでいなかった。それどころか、溜息を一つ吐いたりしている。
「柄にもなく格好良いことを言ったのに、次の瞬間にはこの体たらく。本当、詰めが甘いわね。……まぁ、そういうところが輝くんらしいんだけど」
言ってから、美菜は歩き出す。
「行き先は決まったのか?」
「えぇ。3階に、お気に入りのアパレルブランドのお店があるの。丁度冬物を新調したいと思っていたところだしね。お財布と荷物持ちは任せたわよ」
おい、ちょっと待て。
荷物持ちが必要になるくらい、沢山の服を買うつもりなのか?
どうやら美菜は、本気で俺の財布をすっからかんにするつもりらしい。
美菜のお気に入りのアパレルブランドは、女子高生の間で絶大な人気を誇っているらしい。
男かつファッションに興味のない俺は、聞いたこともなかったけど。
「ねぇ、このニットセーターなんて可愛くない?」
ベージュ色のニットセーターを自身に当てながら、美菜は似合っているかどうかを聞いてくる。
「似合っているけど……俺はどっちかと言うと、隣の胸元が空いているやつの方が好きだな」
「絶対着るか、バカ。……取り敢えず、これは買いね。輝くん、持っていてちょうだい」
美菜はニットセーター(胸元が空いていない方だ)を、俺に預ける。
支払いは俺担当なので、一応値札を確認すると……自分の私服と比べて、文字通り桁違いの金額だった。今日日、洋服ってこんなに高いものなの?
「次はワンピースでも見ようかしら。……あっ、これなんて結構好きかも」
美菜はこれまたお高そうなワンピースを手に取る。……手持ちのお金で足りるかな? ちょっとATMに行ってきた方が良いかな?
「流石にワンピースは着てみた方が良いかもしれないわね。試着室に行きましょう」
「え? お前その歳になって、一人で着替えられないの?」
「そんなわけないでしょう? ……試着した姿を見て欲しいのよ。だから試着室の前にいなさいって言っているの」
成る程、そういうことか。
てっきり一つの試着室で二人仲良くお着替えイベントかと思ったぜ。
「覗いたら殺すわよ」というお約束のフレーズを口にした後、美菜は試着室に入っていく。
チラッと見た感じだと、試着室の中には姿見が設置されていた。
つまり着替えをする時、美菜は嫌でも自分の小さくなった胸を見なければならないわけで。
その時彼女は、どんな風に思うのだろうか?
仮にショックを受けたとしても、その感情は自分の中にぐっと押し込める。そして俺の前では、気丈に振る舞う筈だ。
だから俺は、美菜の些細な変化や違和感に気付いてあげなければならない。
彼女に本当の笑顔を取り戻させることが、彼氏としての俺の務めである。
そんなことを考えていると、突然試着室の中から「きゃっ!」という悲鳴が聞こえる。
短い悲鳴だったが、俺は聞き逃さなかった。
もしかして、胸が小さくなった以外にも何か体に異常が生じているとか? 服を脱いだことで、新たな異変を発見したとか? だとしたら、大問題だ。
俺は試着室のカーテンに手をかける。
覗いたら殺すと言われているけれど、そんなのどうだって良い。今はとにかく、美菜が心配が心配だった。
「美菜、大丈夫か!?」
カーテンを開けると、そこには半裸の美菜の姿があり、そして半裸の彼女の胸部にはーーサラシが巻かれていた。
サラシによって押さえつけられてはいるものの、Gカップという圧倒的サイズの胸は健在で。
つまり美菜の「胸が小さくなった」という話は、真っ赤な嘘だったのだ。
◇
美菜の胸が小さくなったというのは、彼女のついた嘘だった。
結果として、美菜の体に何ら異変はなかった。それに越したことはない。
しかし問題がなかったからこそ、どうして美菜がそんな嘘をつくに至ったのか問い質さずにいられなかった。
フードコートにて。
二人用のテーブル席に、俺と美菜は向かい合うって座る。
先程までの上下関係とは一転、俺が腕を組んで踏ん反り返り、対して美菜は背筋を伸ばし俯いていた。
「それで、何であんなバカみたいな嘘ついたんだよ? こっちは本気で心配していたんだぞ?」
「それは……ごめんなさい」
言い訳や弁明をする前に、まずは謝罪する。その意気は良し。
だけど謝ることなら子供でも出来る。大切なのは、その後どうやって誠意を示すのか、だ。
俺が何も言わずに美菜を凝視していると、どうやら彼女も観念したようで。諦めたように、両手を上げた。
「先週ね、お姉ちゃんが彼氏にフラれたのよ。で、その理由っていうのが……「胸に触らせてくれないから」らしくて」
はあ? 何なんだよ、その理由は?
胸に触らせてくれないから別れるとか、そいつ最低だな。同じ男として恥ずかしい。
「お姉ちゃんは彼に本気で惚れていた。だからそんな理由でフラれたことが、余程辛かったみたいで。……自棄酒しながら、半ば八つ当たり気味に私に言ってきたわ。「アンタの彼氏も、胸目当てなんじゃないのか」って」
「それを真に受けたのか?」
「いいえ。でも、どうしても不安が拭えなくて……」
……そういうことか。
恐らく美菜の姉とその彼氏も、はたから見たらラブラブだったのだろう。そんな二人でさえ、胸が原因で破局するに至っている。
姉と同じく巨乳の彼女が、交際に対して疑念を抱くのも無理はない。
「だけど輝くんは、胸が小さくなっても私を愛してくれると言った。胸目当てじゃないと、言葉と行動で証明してくれた。……今となっては、あなたの愛を疑ったことを後悔しているわ」
「だったら、どうしてすぐに「胸が小さくなったのは嘘だ」と言わなかったんだよ? 機会なら、いくらでもあったろ?」
「それは……デート代を全部出してくれるって言うから、つい」
「てへっ」と、美菜は舌を出す。……現金なやつだこと。
「輝くんを疑った。私はそのことに対して、お詫びをするべきだと思うの」
「別に良いよ。今後こんな嘘はつかないと、約束してくれれば」
「いいえ。それでは私の気が収まらないわ。だからといって、金銭の絡むお詫びは後々しこりを残すだろうし。……そうだわ」
サラシをほどき、いつものGカップに戻った胸に手を当てながら、美菜は言う。
「むっ、胸を揉ませてあげる。それでどうかしら?」
……顔が真っ赤になっている。セリフだって、若干言い淀んだ。
何気ないように言っているけど、本当はめちゃくちゃ恥ずかしいんだろうなぁ。
それに美菜は自身の胸が原因で、思い悩んでいたのだ。軽い気持ちで、「胸を揉ませてあげる」なんて発見をする筈がない。
そこには確かに、誠意と覚悟が表れていた。
「私の胸が発端になったのだから、私の胸で終わりにする。落とし所としては、妥当じゃないかしら? それとも輝くんは……私の胸になんて、興味ないかしら?」
「……そんなわけないだろ」
だが勘違いしないで欲しい。
Gカップが好きなのではない。Gカップの美菜が好きなのだ。
美菜でなければ、HカップだろうがIカップだろうが意味はない。
「でも流石に人前では恥ずかしいから……私の部屋で、ね」
それから俺は美菜の部屋に案内され、お詫びを履行されたわけだけど……その感想は、二人だけの思い出として胸の中にしまっておくとしよう。胸だけに。
ただ敢えて一言述べるとしたら……「ヤバかった」と、それだけ記しておく。 サラシをほどき、いつものGカップに戻った胸に手を当てながら、美菜は呟く。