第6話 スノードームと記憶の欠片
ビルの訪問のあと、ニコラは仕事があるからと村はずれにある事務所へと向かった。
リーズはそのままビルに手を引かれて隣の家に挨拶に行くことになったのだが……。
「まあっ!! あなたがリーズさん!!?」
「母ちゃん、リーズ姉ちゃんすげえ美人だよな! 母ちゃんと違って!」
「あんたいつも最後が余計な・の・よ!」
リーズからビルを引きはがすと、彼の母親はビルの頭を軽く叩く。
「お見苦しいところをすみません! リーズ……さんっていうのもなんだかよそよそしいのでリーズでどうかしら?」
「ええ、ぜひ!」
「よかったわ! 何もないところだけどよかったら入ってゆっくりしていってちょうだい」
リーズはビルの母親の言葉に甘えて家の中にお邪魔することにした。
ニコラの家とはまた違って家族住まいという感じが漂っており、物が多くて散らかり気味だった。
それでもリーズはある棚の雑貨が気になってまじまじと見つめる。
「これ、スノードームですか?」
「そうなのよ、主人が私の結婚記念日にくれてね」
「スノードーム……」
その言葉をつぶやいた直後、リーズの中にある記憶の欠片が降りてきて、頭の中に誰かの声が聞こえてくる──
『スノードームにはね、幸せが詰まってるの。ほら、ここ●●●●の●●が……』
その女性の声はぼわっと最後のほうが聞こえず、そしてそのまま周りの音が遠くなる。
「う……」
ふたりと身体が揺れて自分を支えられなくなったリーズは、しゃがみ込んで苦しそうに頭を抱える。
「大丈夫かい?!!」
「おいっ! リーズ姉ちゃん!! 大丈夫かよ!」
「え、ええ……」
「とにかくここに座んなっ!!」
ビルの母親が急いでテーブルの椅子を持ってくると、リーズの身体を支えて座らせる。
平衡感覚がなくなったリーズは、目をぎゅっと閉じて椅子の背もたれに寄りかかりながら、身体が落ち着くのを待った。
次第に目の前が鮮明に見えるようになってきて、心配するビルと彼の母親の声がはっきりと聞こえてくる。
頭もはっきりとしてきたリーズは、息を整えて二人に大丈夫だと告げた。
「とにかく紅茶でも飲んで」
「ありがとうございます、いただきます」
紅茶を口に運んで落ち着かせながら、先程聞こえた声を思い出す。
(誰……? あの声は誰なの……?)
両手で包み込まれたマグカップの湯気からは、ふんわりと甘い桃の香りがした──
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