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第14話 白き魔獣との戯れ

「シロっ!!」

「くう~ん」


 白くもふもふの長い毛を撫でながら、よしよしと言って可愛がる。

 リーズが助けた魔獣の狼は彼女によって「シロ」と名付けられて静養していた。

 どうしてシロなのか、など聞くまでもなく毛が白いからだろうと思ったニコラだったが、よく聞いてみると治療をした時にシロの足の裏に「シロツメクサ」の葉がついていたからだそう。

 それはむしろクローバーということで、「クロ」なのでは?なんてニコラは言うと、あたふたとした後で「シロのほうが可愛いんです!!」とリーズはぷんすかして応えた。


 そんなこともあったがシロは少しずつ回復していき、最初は歩けなかった足も、段々動かしてゆっくりと歩けるようになった。

 傷がひどく化膿する前に治療が間に合ったため、悪化や傷が残ることもなく無事に綺麗に治った。


「シロ、今日はどんなお料理にしましょうか?」

「く~ん」

「え? ポトフは一昨日も食べましたよ? 好きなんですか?」

「わうっ!」

「そうですかっ! じゃあ、そうしましょうか」

「…………」


 二人……いや、正式には一人と一匹が仲睦まじく夕食の献立の話をしている。

 その後ろから椅子の背もたれに顎を乗せて、不満そうにしながらアイスコーヒーを飲むニコラがいた。


「…………リーズ」

「あっ! そういえば、シロのブラッシングがまだでしたね! 今すぐしますので!」

「わうっ!!」


 そうしてテーブルの横にある二人掛けのソファにシロが寝転がると、リーズがその横にちょこんと座って毛並みを整える。

 なんとも気持ちよさそうにブラッシングをされているシロだったが、その様子をなんとも面白くないといった様子でニコラがにらみつけた。


 ずーっとすでに氷だけになったアイスコーヒーのコップをストローで吸い続けて、ジト目で見ている。

 そんな視線には目もくれずにシロの毛並みを整えるリーズ。


 ニコラは時計を見ると、さっと起き上がり、コップを洗って玄関のほうに向かった。

 家を出るのだと気づいたリーズは、ソファからニコラに声をかける。


「ニコラ、お仕事ですか?」

「ああ」

「遅くなりそうですか……?」

「たぶん」

「……わかりました」


 なんとも素っ気ない会話を交わした二人は、そのまま目を合わせることもなく分かれる。

 ニコラが玄関の扉を閉めた後、リーズはブラッシングをする手を止めた──



「くう~ん?」


 リーズは先程とは打って変わってどこかぼうっとしながら玄関を見つめて、ニコラが座っていた椅子に目を移す。


「……嫌われてしまいましたね」


 悲しそうに肩を落として小声で呟いたリーズに、シロがすり寄る。

 まるで元気を出してといっているかのような様子で、何度も頭をリーズの膝にすりつけた。


(あんな態度をとったら嫌われて当たり前ですよね……)


 リーズはそっと立ち上がると、玄関のほうにある姿見で自分の腕を見る。

 シロに傷つけられた傷はもうすっかり跡形もなく消えてしまっていた。

 かなり深くえぐられていたため、跡が残ってもおかしくないのだが、彼女の”ある能力”が原因でそうはならなかった。


(やっぱり、すぐに傷が消えてる……)


 昔からリーズはなぜか傷がすぐに癒えてしまい、傷跡も残らない。

 気味が悪がられるのではないかと思い、まわりの人には言うことができなかった──



「(リーズ、私はお前を怖がったりしない)」

「──っ!!」


 リーズの脳内にシロの言葉が響き渡る。

 先程の甘えた目とは違い凛として訴えかけるような、そんな目をしていた。


「シロ……」

「(お前は私の命の恩人だ。それに、私は魔獣だ。そもそも人間からしたら普通ではないからな。お前が少し変わった人間であろうと気にせん)」


 シロはそう言ってリーズの肩まで駆け上がると、そのまま頬にすり寄る。


「(むしろ、私を怖がらないところが変だな)」

「変ってっ!!」

「(ニコラは怒っていないぞ、あの小童は拗ねているだけだな)」

「え?」

「(いいや、なんでもない)」


 そう言ってシロは自分用にと用意されたカゴのベッドにささっと向かい、そのまま丸まって寝た。


「もう……肝心なところだけ知らんぷり……」


 リーズはソファから立ち上がって夕飯の準備に取り掛かると、その様子をちらりとシロが見つめた。


「(どちらもまだ子供……幼いな)」


 そんな風にシロは思いながら、再び目を閉じた──

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


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