第1話 誕生日に捨てられた令嬢
以前短編であげた作品の連載版です。
ゆっくりめに更新の予定です。
よろしくお願いします!
「リーズ、お前はもうこの家の人間ではない、二度とここに足を踏み入れるな」
髪を強く引っ張られたまま引きずられ、そして彼女はそのまま玄関の外へと放り出される。
自分が何を言われたのかわからず、引っ張られて痛かった頭に手を当てながら、彼女はその場に呆然と立ち尽くす。
「お父様っ!!」
「記憶もないくせに偉そうに『お父様』などと呼ぶな!!」
玄関の扉の中に仁王立ちして立ち、そのまま冷たい目線を送った後、その腹の出て肥えた身体を揺らして彼女のもとに近づく。
そして、彼女は反論もさせてもらえないうちに、自分を罵倒する父親に馬車へと押し込められる。
どうして、という気持ちが彼女の心を支配して離さない。
軽蔑したような目で見遣る彼女の父親は馬車が消え去っていくのを見届けもせずに、黙って自室に帰っていった。
彼女──リーズ・フルーリーは17歳の誕生日の今日、父親に捨てられた。
フルーリー伯爵家を出てしばらく経った頃、馬車は整地されていない石ころで荒れている坂道を下っていく。
「きゃっ!」
馬車の中でリーズの茶色く長い髪や肩が激しく揺れる。
景色もみるみるうちに街の景色とは程遠い、深い森のような景色に変わっていく。
(あまりのあぜ道でお尻が痛い……)
馬車は何度も何度も横転しそうになりながら、あぜ道をひたすら進んでいく。
どこに連れていかれるのか、何のために連れていかれるのか、まだわからないリーズは、馬車にかなりの時間揺れられて、ようやくある辺境の地へとたどり着いた。
(どこかについた?)
御者が馬車の扉を開き、降りるようにリーズに伝える。
(降りろ、と言うの? ここで?)
周りはただの森で、四方どこを見渡しても家や街は見当たらない。
ひたすら濃い緑を生い茂らせた木が立ち並び、見通しも悪うように見える。
馬車から降りてリーズが地に足をつけた瞬間、御者は何も言わずにさっと席に座るとそのまま馬にロープで進めという指示を与えて去っていく。
「えっ?! 待ってください! どこに行くのですか?!」
馬車はまるで逃げるようにしてその場を離れ、あっという間にその姿も見えなくなった──
リーズは自分の置かれた状況が全くわからず、辺りをもう一度見回す。
(ここ……どこなの? 森?)
辺りは小鳥の鳴き声一つ聞こえない深い深い森の奥のようだった。
あまりの木の多さと大きさに日の光が遮られて少し薄暗い。
そんな森の中でリーズは自分の置かれた状況について必死に考えようとするが、なかなか思うように思考が回らない。
だが、それでもただ一つの可能性だけを感じて、彼女は思った。
(え? 私、置いて行かれてしまったの?)
リーズはそう思うがなんとも現実味を感じずに、さらにいうと確かな情報ではないと判断したため、しばらくその場に留まってみることにした。
◇◆◇
リーズが森に残されてから、どれほどの時間が経っただろうか。
いくら待てども迎えが来ることもなければ、誰かがこの状況について教えてくれることもない。
彼女はその場にしゃがみ込んで長い髪でカーテンをするように自分の身体を包み込む。
だが、それは悲観しているわけではなくあくまで彼女はわからないという状況の中に身を置いていただけであった。
(えっと、これは試練とかなのかしら? 伯爵令嬢は馬車で行ったらもしかして歩いて帰る慣例がある?)
とんちんかんな考えを巡らせるリーズだが、彼女に至ってはこれは本気で考えている。
普通であればどう考えても父親の言葉からも推測して『捨てられた』のではないかと考えるだろう。
ではなぜ、彼女はそのような普通の考えに至らずに、歩いて帰る慣習なのではないか、というような的外れな答えがでるのか──
実は彼女には先月までの記憶がない。
つまり、令嬢としての振る舞いやおこないも全て忘れていた。
普通の生活に必要なある程度の記憶はあるのだが、家族のことはおろか自分が伯爵令嬢として生きてきた17年間の記憶がない。
彼女は以前のような令嬢としての品ある行動の仕方がわからず、親切なメイドに教えられたり、時には嘲笑われたりする日々。
そんな様子を見た彼女の父親は、冷たくもリーズを用なしと判断してこの辺境の果てに彼女を【捨てた】のだ──
自分の父親の考えが、彼女自身にわかるわけもなく、彼女はそのまま森で三日三晩さまよい続けた。
次第に彼女自身の体力もなくなってきており、目がくらりとして動けなくなる。
(もうダメ……食べるものもないし、飲み水もない、限界だわ)
リーズはその場で仰向けに倒れて空を見上げた。
すると、雲行きの怪しかった空はやがて雨が降り出し、彼女に容赦なく降り注ぐ。
(ここで私は死ぬのね、お父様ごめんなさい。そして、お母様、今そちらに向かいます)
雨粒がリーズの顔に当たり、彼女はゆっくりと目を閉じて意識を失った──
やがて、その身体をゆっくりと抱きかかえる一人の騎士がいた。
彼女は騎士の乗る馬に乗せられながら、森を脱出したが、彼女はまだ意識を失っている──
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