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第六話 祖父母

 新士の祖母五十嵐つつじは、新士に渡された携帯電話をテーブルに置いて、じっと鳴るのを待っていた。

 「つつじさん、お茶っ葉が切れてるけど、替えはどこにあるかな?」と、新士の祖父五十嵐十郎イガラシジュウロウが話しかけると、「十郎さん、ちょっと今はダメだよ。新士ちゃんの電話を待っているからね。」と答えた。


 新士は自宅地下室の大きな水槽の中にいた。

 水中で目隠しをした状態で、手は結束バンドで拘束し、足はロープで縛ってある。

 足に結んだロープには重しが繋がれており、紐を解かなければ水中から脱出はできない。

 決して焦ってはいけない。

 焦りは死を呼ぶ。

 「冷静に素早く」が唯一の成功への手段である。


 新士は水中で30秒数えてから体を曲げ、拘束された両手で器用に両足に結ばれたロープを解いた。

 水面に浮上すると水槽の縁に片腕を引っ掛けて目隠しを取り、時間を確認した。

 新士が水の中に入ってから42秒。

 「まずまずだな。」と言って新士は水槽から出ると、両腕を大きく上に振り上げ、両肘を開きながら勢いよく自分の下腹部に向けて拘束された両手首を下ろした。

 結束バンドはいとも簡単に切れた。


 タオルで頭を吹きながら、携帯で祖母に電話した。

 「ばあちゃん、もういいよ。ありがとう。」と新士は言った。

 祖母は「了解だよ。お爺さんとお茶を頂くから新士ちゃんも上がっておいで。」と言って電話を切った。

 新士が命の危険がある訓練をするときは、いつも祖母にある時間まで連絡がなかったら救急車を呼ぶように頼んであるのだが、今まで新士から電話がなかったことはないので、祖父母は全く心配していなかった。


 新士が一階のリビングに上がると、祖母がお茶を淹れてくれた。

 お茶うけにはセロリの浅漬けを出してくれた。

 祖父はお茶をすすりながら窓の外を見て、「喜朗は元気だと思うかい?」と新士に聞いた。

 祖父はお茶を飲むとき、よく喜朗おじさんの話をする。

 多分みんなが喜朗おじさんの話をしなくなるのが寂しいのだろう。

 喜朗おじさんからは、新士が両親の仇を打ったあの日以来連絡が来ていない。

 もう7年になる。


 祖父母には、新士がパニッシャーであることも、その全てを喜朗おじさんに習ったことも伝え、新士が17歳の時に両親の仇を取ったことも打ち明けた。

 両親の仇(小塚)から聞き出した話では、小塚は『トカゲ』と言う組織に依頼されて事件を起こしていたらしい。

 喜朗おじさんは、その組織を追って消息を断ったと祖父母には正直に伝えた。


 本当の事を打ち明けた日、祖父は一日書斎に閉じこもり、祖母は両親の仏壇の前でずっと遺影を眺めていたが、次の日からは何事もなかったように新士に接してくれた。

 喜朗おじさんの最後のメールには、『少し面倒なことになりそうだ。』と書いてあった。

 喜朗おじさんは今もその面倒の対応をしているのだろうと、祖父母も新士も信じている。


 だから新士は、『トカゲ』と言う名を聞いたときは、何を置いてもその仕事に取り掛かるように決めていた。


 ☆☆☆


 雨森裕也アマモリユウヤは妹の美代ミヨに電話して、「ビールがなくなりそうだから、ケースで買ってきて。あと、焼酎も何本か頼むわ。」と言った。

 美代は電話を切ると、「おばさん、ビールひとケースと、焼酎何本か追加ね。」と田辺良子タナベリョウコに言った。

 良子が俯いてスーパーの中のリカーコーナーに行こうとすると、「おばさん、返事は~?」と美代が言った。

 良子が小さな声で「・・・はい。」と言うと、「いつも言ってんじゃん、嫌々返事すんなよ!」と美代は良子を睨んで言った。


 美代が田辺家のチャイムを鳴らすと、すぐに田辺孝雄タナベタカオが出て来た。

 美代は「遅せーんだよ!帰ってくる頃には玄関で待っとけって言ってんじゃん!」と言って孝雄を睨みつけた。

 孝雄は俯いて美代の視線を避け、小走りで買い物袋を両手にいくつも抱えた良子の元に行き、「母さん、大丈夫?」と声を掛けた。

 良子は、「車にビールがあるから運んでくれる?ありがとう。ごめんね・・・。」と言った。

 

 良子と孝雄が家に入ると、裕也が買い物袋を抱えた良子に顔を近づけて、俯く良子の顔を下からジロジロ見ながら、「おい、美代。おばさん勝手に食い物とか買わなかったか?」とソファーでテレビを見始めた美代に聞いた。

 「ずっと見張ってたから大丈夫だよ。」と美代は、どうでも良さそうに答えた。

 「そうか。お使いご苦労さん、おばさん。」と言って、裕也は買い物袋からスナック菓子を一つ取って窓の外の様子を伺った。

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