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第五話 二択

 少しして小塚が目を覚ましたので、新士は見ていたファイルを椅子の上に置いて、小塚にもう一度同じ二択を出した。

 「A、水をかける。B、電流を流す。」

 小塚ははじめ切れた様子で何か叫んでいたが、新士がスタンガンの置いてあるテーブルの方に動き出す素振りを見せると、今度は慌てて首を縦に何度も動かした。


 「おっ、今度はAだな。」と新士は言って、小塚の背後に回って水の入ったバケツを持ってきた。

 「今日は暑いから、この二択はラッキーだったな。」と言って、新士は小塚にバケツの水を勢いよくぶつけるようにかけた。

 水を掛けられた小塚はよほど頭に来たのか、顔を真っ赤にして何か叫び始めた。


 新士は全く小塚の様子を気に留めることなく、椅子に置いたファイルを何枚か手に取って見ていた。

 小塚の叫ぶ勢いが収まると、新士はファイルを椅子において、次の二択を出題した。

 「A、ボールをぶつける。B、電流を流す。」

 小塚はここで何かに気付いたように、新士がさっきまで見ていたファイルに目をやった。


 チラっと見えるファイルには、見覚えのあるサイトの画面がコピーされていた。

 そのコピーには、小塚が5年前に五十嵐家を襲ったとき、自分がインターネット上で二択を出題したときの画面が写っていた。


 小塚は、当時のことを思い返していた。

 家に押し入った時は確かスタンガンを使った。

 1問目は水だった。

 2問目はボールだった。

 3問目は・・・・、と考えながら小塚は、さっき新士がバケツを取りに行った自分の背後に首を回して、そこに置かれた物を見た。


 そこには、アイスピックやロープやガスバーナーやペンチがきれいに並べて置いてあった。

 小塚はそれらの道具に対して身に覚えががあった。

 小塚が小さく震えながら新士の方に向き直ると、新士は野球の硬球を持って小塚のすぐ横に立っていて、小声で「お前に指示を出した人間の話をしろ。」と言った。


 小塚は、新士の何の感情も込められていない目を見て、自分がまな板の上に載った魚であることと、その魚は既に死んでいることを悟った。

 新士は、小便を流しながら頷く小塚の口から粘着テープを剥がして、「さあ、話せ。」と言った。


 ☆☆☆


 シャワーを浴びてデッキでコーヒーを飲んでいた新士に、船長が声を掛けた。

 「終わったのかい?」

 「はい。終わりました。」と、新士は水平線を見ながら答えた。

 「そうか。じゃあ、後始末はこっちでやっておくよ。」と船長が言うと、新士は「よろしくお願いします。」と言った。


 船長は持参したマグカップのコーヒーをスプーンで掻きまぜながら、「これからどうするんだい?」と聞いた。

 新士はしばらく考えてから、「おじさんに準備してもらっている訓練を全て完了させたら、パニッシャーになろうと思います。」と答えた。

 船長は新士の顔を正面から真っ直ぐ見た。

 普通の幸せを捨てる覚悟はあるのか・・・。

 全てを失うかも知れない事は理解しているのか・・・。


 船長の目は色々な問いかけを新士にぶつけていたが、新士の顔から確かな覚悟を確認すると、「儂とこの船の者は、みんな君のおじさんに大きな借りがあってな。」と言って名刺を一枚くれた。

 名刺には電話番号だけが書かれていた。

 「大したことはできないが、どうしようもないクズ達を魚のエサにする手伝いくらいはできるよ。」と船長は笑って言った。

 新士は船長にお礼を言ったあと、再び水平線に目をやった。

 真っ青な空と海はピッタリとくっつき、その境い目は定規で線を引いたように真っ直ぐに伸びていた。

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