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第二話 潜入

 5年が経ち、新士が17歳になったある日の事、新士の運転で食料の買い出しに町に降りると、立ち寄った定食屋のテレビで殺人事件のニュースをやっていた。


 ニュースでは、殺人の手口が5年前の五十嵐家夫婦殺人事件に似ていると伝えていた。

 新士は思わず立ち上がり、テレビに釘付けになった。


 「おじさん、これって・・・」と新士はテレビを見たまま呟いた。

 「ああ、あいつかも知れないな。」と喜朗おじさんはお茶を飲みながら言った。

 「現場に行こうよ!」と新士は言ったが、喜朗おじさんはゆっくり湯呑を置きながら、「あいつの事はもう調べてある。いつでも探し出せるから慌てる必要はないよ。」と言った。


 「でも、被害者が増えてるし・・・」と新士が言うと、「いいか、新士。俺たちの目的はお前の父さんと母さんの無念を晴らすことだ。知らない誰かを守るためじゃないだろ?」と喜朗おじさんは言った。

 「でも、このまま野放しにはできないよ・・・。」と新士は呟いた。


 しばらく新士の様子を見ながら何かを考えていた喜朗おじさんは、身を乗り出して小声で言った。

 「実はあいつは単独犯じゃない。何かデカそうな組織があいつに依頼してやらしてるようなんだ。」

 新士は初めて聞く話に目を丸くした。

 「あいつをやると、その組織が動く可能性もあるが、それでも今やるか?」と喜朗おじさんは言った。

新士は「やるよ。これ以上俺たちみたいな被害者を出すわけには行かない。」と言った。


 「この仕事のプロとしては、新士にまだ教えたいことは残ってるんだが、俺は新士のそういうとこ嫌いじゃないよ。兄さんそっくりだ。」と喜朗おじさんは言ったあと、「よし、じゃあやるか。」と言って立ち上がった。


 山小屋に戻ると、喜朗おじさんはファイルを見せてくれた。

ファイルには犯人らしき男の写真と一緒に、名前と住所がいくつかあった。

 「この名前と住所が沢山あるのは?」と新士が聞くと、「こいつは戸籍上存在してないから、名前と住むところを変えながら暮らしてるんだよ。」と喜朗おじさんは答えた。

 「じゃあ、突然いなくなっても大きな騒ぎにはならないね。」と新士が言うと、「そう言うことだ。だから作戦は『Bの5』で行く。」と喜朗おじさんは言った。

 『B』は拉致で、『5』はその手段を表している。


 「新士、お前一人でやってみろ。俺は組織らしきものが動かないか監視しとく。船長に連絡しとくから、拘束したら『更生丸』に乗せろ。」と喜朗おじさんは言って、新士は頷いた。


 ☆☆☆


 「あんた見ない顔だな。新人かい?」とその中年警備員は、でっぷりとした腹にベルトを巻きながら新士に聞いた。

 「はい。今週からお世話になってます。五十嵐です。」と新士は答えた。

 「はいはい、こちらこそよろしくね。俺は小山田だよ。」と中年警備員は言って、警備員室の席に着くなり持参したドーナツを食べ始めた。


 でっぷりとした腹が、椅子のひじ掛け部分を外側に少しずつ広げてすっぽりと収まり、背もたれは強度ギリギリで小山田さんの背中を支えた。

 小山田さんの手の中のドーナツはとても小さく見える。

 こういうのを『調和』というのだろうかと、新士は絵画でも鑑賞するようにその様を眺めた。


 新士がコーヒーを出すと、「お、気が利くねぇ。夜は大してやることないからさ、まあ漫画でも読んでてよ。」と言って、小山田さんはコーヒーを飲んだ。

 「この防犯カメラの映像って、どこかに転送されたりしてるんですかね?」と、新士は警備員室のモニターを見ながら小山田さんに聞いたが、小山田さんはドーナツをつかんだまま、椅子に深く沈み込んで眠っていた。

 「あれ、体は大きいのに意外と早く効いたな。」と呟いて、新士は睡眠薬入りのコーヒーを流しに捨てると、小山田さんに毛布を掛けてあげた。

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