【短編】S級なろうジャンル『異世界恋愛』を追放された馬鹿王子はハイファンタジーのクズ勇者と出会う。戻って来いと言われても、合体して馬鹿クズ勇者王子になったから今更もう遅い。
肩の力を抜いてそのまま脱臼して無事脳死。
「馬鹿王子、貴方はもうこのジャンル『異世界恋愛』には必要ありません!追放します!」
なろうのS級ジャンル異世界恋愛が日間ランキングを埋め尽くしたその日、馬鹿王子はジャンルリーダーである公爵令嬢から突如追放を告げられた。
「そ、そんな!何で僕が追放されないといけないんだ!僕は今までざまぁ対象として頑張ってきたじゃないか!」
「確かに貴方のおかげでこのジャンルは成長しましたわ。ですが、今や貴方による婚約破棄はマンネリ化して大喜利扱いされる始末。これからは新しいざまぁ対象を使って発展する時代なのです。さ、入って来なさい」
公爵令嬢が手を叩くとカーテンの向こうから白目を剥いた少女が四つん這いで飛び出してきた。
「キシャー!オネエチャンズルイ!チョウダイチョウダイ!」
「こ、公爵令嬢!何だよこの化け物は!」
「貴方の代わりにざまぁを担当するモンスター妹ですわ」
「いや、こんなんにざまぁが務まる訳ないじゃないか!」
「ご心配無く。つい先日モンスター妹をざまぁ対象にした新作が何作か投稿されましたが結果は上々でした」
「そんなの物珍しさにポイントが集まっただけですぐに飽きられるよ!それに…」
馬鹿王子の忠告は途中で遮られた。屈強な衛兵が馬鹿王子を背後から羽交い締めにしたからだ。馬鹿王子はそのまま屈強な衛兵によってジャン境(国境のジャンル版みたいなの)の外に放り出されてしまった。
「はあ〜、あれだけ頑張ったのに追放されてしまった。というか、ここはどこのジャンルだろう」
馬鹿王子はここが何のジャンルなのか確認する為に人里を目指す。すると、自分によく似た顔の冒険者がため息をつきながらジャン境へ歩いていくのを見つけた。
「あっ、あれはクズ勇者じゃないか!という事はここはハイファンタジーだな。おーいクズ勇者ー!」
「ん?ああ、異世界恋愛の馬鹿王子か。久しぶりだな」
馬鹿王子とクズ勇者は親友同士だった。ジャンルが近いのや役割が似ているのもあり、オフの日はよく二人で演技や最近のテンプレについて語り合っていた。
「お前何でこんなとこに居るんだよ。今、異世界恋愛はランキング独占状態だから、ざまぁ役のお前がこんな所にいちゃ駄目だろ」
「実は…追放されちゃった」
「そうか、俺も似たようなもんだ。まあ、俺の場合は自分から辞めようとしてた所さんだけどな」
「えっ」
馬鹿王子には、かそれがとても信じられなかった。クズ勇者はハイファンタジーのエースであり、読者の半分は追放された主人公よりもクズ勇者のざまぁパートを楽しみにしていると噂される程の人気だったからだ。
「そんな、君程のざまぁ役が何で引退なんて」
「クレームが多かったんだ。俺の言動に矛盾が多すぎるってな」
「それは仕方無いんしゃないかな?僕だって、厳しい両親から甘やかされて育ったみたいな一行矛盾はしょっちゅうだよ」
「お前の場合と違って、俺は実力主義の世界で何年もパーティーリーダーをしてきた前提があるから読者がツッコミまくるんだよ」
馬鹿王子は納得した。自分とクズ勇者の役割は似てはいるが、要求される説得力がまるで違う。
馬鹿王子の場合は周りに流され悪気なく婚約破棄するケースが多い。つまり、その言動のほとんどは周囲の環境を反映した結果であり、自らの意志による決断は少ない。そこには確かに様々な矛盾があるが、馬鹿王子が情報弱者かつ自分を特別だと考えているという理由付けである程度誤魔化せる。
一方クズ勇者の追放劇では、そこに矛盾が発生した場合に勇者が情報弱者で自分を特別と思っていたとした場合、誤魔化せるどころかさらなる矛盾に繋がってしまう。何故ならクズ勇者は命のかかった現場で働く管理職であるからだ。
「なあ馬鹿王子、最近の俺のテンプレがどうなってるか知ってるか?」
「主人公の価値を理解できずに追放し、その後何度も主人公の活躍を目にしても認めず、でも嫉妬して対抗心を燃やし自分の実力を越えた任務で自滅する愚かで哀れな存在」
「それは半年ぐらい前の俺だ。今は主人公の価値を知った上でパーティーに入れたけど、主人公の価値を忘れて追放し、その後、初心者以下の実力を遺憾なく発揮して落ちぶれる自滅RTA走者だ」
「うわぁ」
「当然読者からのクレームはどんどん増える。この勇者はアホですか?いや、アホとしてもこうは動かないだろってな。実際俺自身、もはや何を演じてるのか分からん。多分作者も俺の事を分かってないまま使っている」
クズ勇者は涙を流していた。読者からの非難に対してでは無い。己の役を理解出来ない未熟さに泣いていた。馬鹿王子も一緒に泣きながらハンカチを取り出そうとポケットを探る。するとポケットからハンカチと一緒にイヤリングが出てきた。
「これは、合体アイテム!」
「あん?」
「待てよ、これを使えば…」
馬鹿王子の脳が高速回転する。そして、約十秒後頭上にランプが灯った。
「閃いた!クズ勇者!この状況を何とかする方法があるかもしれない」
「なんだなんだ」
「まず、このイヤリングを片耳につけるんだ。その次にイヤリングをつけた耳の方に向かって腕を回しながらカニ歩きしつつ呪文を…」
二人は何度か練習を繰り返し、そして翌日。
「「ポ〜ション!ハアッ!!」」
マジックアイテムの効果で二人は合体した。
「馬鹿王子とクズ勇者が合体して馬鹿クズ勇者王子ってとこかな」
■ □ ■
「公爵令嬢様!日間一位がハイファンタジーに奪取されました!」
「公爵令嬢様!異世界恋愛のランキング常連作者がポイント欲しさに現実世界恋愛に乗り換えました!」
「公爵令嬢様!現在十三位の作者がエタりました!」
馬鹿王子を追放しモンスター妹をざまぁ役にしてから二ヶ月、異世界恋愛は瞬く間に衰退し、今や総合ポイントは二位のハイファンタジーとほぼ変わらない程になっていた。
「まさかモンスター妹がここまで使えないなんてね。いいえ、そうじゃないわ。馬鹿王子を追放するべきでは無かった」
公爵令嬢は何故こうなったのかを理解していた。モンスター妹は確かに絶大なインパクトを持ったキャラだったが、ざまぁに至るまでの略奪愛に至る為の知能が足りなかった。こんなんに騙され浮気をするのはそれこそ馬鹿王子しかいない。馬鹿王子を追放した後は彼の役割を平凡王子が引き継いでいたが、大抵の場合浮気には至らずモンスター妹が暴れてるだけで恋愛ジャンルとは呼べないものになっていた。
モンスター妹が駄目なら、従来の泥棒猫である男爵令嬢を再起用してはどうかという案も出たが、こちらも馬鹿王子不在の結果婚約破棄すら起こせないという結果に終わった。結局、異世界恋愛に婚約破棄はまだまだ必要であり、婚約破棄が機能するには馬鹿王子が必須なのだ。
「こうなってしまっては間違いを認めるしかありませんわね。馬鹿王子を連れ戻しましょう」
公爵令嬢の命令によりジャン境周囲やハイファンタジー、さらには現実世界恋愛やヒューマンドラマにまで捜索が行われた。だが、馬鹿王子が見つかる事は無かった。馬鹿王子という存在は既にこの世に存在しなかったからだ。
一方その頃ハイファンタジーでは、今日も今日とて追放劇が行われていた。
「おい荷物持ちィ!貴様は余のパーティーを追放だかやー!さっさと去れぃこのマムシ娘め!」
馬鹿王子とクズ勇者が合体した馬鹿クズ勇者王子が元気一杯に追放している。
馬鹿クズ勇者王子とは、勇者としての役割を与えられた王子である。クズ勇者が抱えていた言動の無茶苦茶な点の多くを『王子だから勇者とかS級とかはただのハリボテです』で解決でき、しかも婚約破棄ざまぁにも対応可能なのだ。
「オーノー!荷物持ちを追放したら四回転ジャンプが出来なくなったぞ!」
「殿下、貴方は元々三回転半が限界なのです。そして、貴方の国が無事だったのは私の国と軍事同盟を結んでいたからです」
「ぜ、是非もなし〜っ」
この後、馬鹿クズ勇者王子は弟王子と母親に裏切られて国を傾けたり、東の覇王が十倍の戦力で攻めてきたり、大陸を支配していた旧王族の生き残りに嫌われそれが原因で周辺国に一斉に攻められたり、非道な策と追放を連発して魔王認定されたり、要するにクズ行為とざまぁの無限ループに突入していた。
「あー、なんかムカつく。よし、昨日は半裸でダンジョン行ったけど今日は女装で行こう。笑う奴は殺してやろうホトトギス!」
相変わらず言動は意味不明、いや、以前よりおかしくなっているが、キャラに筋は通っている気がするし読者からのクレームも減っている。馬鹿クズ勇者王子は幸せだった。
私はどのジャンルも好きです。