ゼロの惑星より、君らへ。
生命の99%が死に絶えた惑星に只一人の男の姿がある。
短髪色黒の中年男性。蒼く澄み渡る空にお似合いの作業着姿で、滴る汗も気に留めず何かをしている。
ギギィ ギギィ ギコギコギコ…
見たところ、大きな機械の基幹となる其処を硬く閉めている。
ーったくよォ、暑くて嫌になるね。
ー……少しは涼しい風、吹いてくれると良いんだけどな。
ビュゥと吹いた風は生暖かい様子で、男は眉間にしわを更に寄せる。
空は快晴。季節は、夏、だろうか。ともあれ、木の一本すら辺りには見当たらず、そこに広がっているのはまるでスクラップ工場のような、そんな街の姿であった。
人の声など、車のクラクション音など、人工的な気配は一切感じない。
まさにそこは、その男しか居ない、陸の孤島のようであった。
西暦2451年、日付は無い。というのは、日付を必要とする者達が居ない為である。
2451年、それは人類史が終わりを迎え、この惑星にゼロがもたらされたことによる終わりの数字。
ーああっ!
暑い、と言ってその場に倒れ込んだ男だけが、この瞬間を生きているのだろう。
胸の辺りには、黄緑色に光るペンダントーーエングラムが首から掛けられている。
エングラムは奇妙な色合いを時折見せ、太陽光の反射か、内側からの光か、何かが蠢いているような気配を感じさせている。
ークーラー一つ、どんだけ苦労がかかるんだチクショー。
ー人間ってやっぱスゲーんだなァ。
ーあーあ。
男は額から滴る汗を、右手で思い切り払い飛ばした。