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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第1章 はじめましても何もなく
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隣家の花

咆哮のように激しく口から放たれた空気の奔流に飛ばされ、川畑は吐き出されて転がった。

「なんだ。ホントに弱点なのか。自分でやっといてなんだが安直だな」

主が苦しそうに身をよじる。川畑は巻き込まれないように急いで距離をとった。


「なんてことするんですか」

帽子の男があわてて駆け寄ってきた。

「むちゃくちゃじゃないですか」

主が暴れるのにあわせて世界が軋む。

「なんだこれ。何が起こっている?」

「主が力を失ったせいで、世界が崩れるんです」

「は?」

「世界を支えて成立させているのは、主の力です。ここはあの主が単体で作っていた小さな世界ですから」

「やばいじゃないか」

「やばいんですよ」

伸び上がった主の身体が4つに裂けて、端から黒い塵になって崩壊していく。

「いやホントに、自分でやっといてなんだが、世界の創造主がカッターナイフで死ぬなよ~」

「神殺しのカッターナイフ……あ、そこに落ちましたね。ちゃんと拾っておいてください」

「常識が崩壊する音がする」

「音がしているとしたら、世界が崩壊する音です。脱出しましょう」

川畑がカッターナイフを拾い上げると、帽子の男はそれが落ちていた場所に手をかざした。

「あなたに因果のある世界に繋げます。穴が開いたら飛び込んでください」

見覚えのある穴が開く。

川畑は男と一緒に穴に飛び込んだ。



「それにしても、時空監査官の目の前で、主殺しの異界崩壊とは」

帽子の男は川畑の前で顔を覆ってさめざめと嘆いた。電線にとまった雀がチュンチュン鳴いているのがのどかだ。

「とりあえず俺は何に巻き込まれているんだ。お前は誰なんだよ」

「あれだけやっておいて、巻き込まれただけの立場に立とうとする根性が凄いですが。あー、私は……」

男は隣の庭先の木に視線をさ迷わせた。

「……百日紅(さるすべり)三十郎です」

「ほう。さるって呼べばいいか?」

「いや、待ってください!じゃあ、デンドロビウム三十郎で。デンちゃんと気軽に呼んでください」

「デンドロビウム?どこにある?」

「ほら、あそこの温室の植木鉢に」

男と川畑は隣の庭をしばらく見つめてから、無言で顔を見合わせた。

「ネーミング、雑過ぎるだろう。三十郎はあっているのか?」

「流石に四十郞までいってないとは思うんですが、二十郞ってゴロ悪いし」

「いろいろ酷い」

電線にとまった雀がチュンチュン鳴いているのが腹立たしかった。


「とにかく、私は一度戻ります。いろいろ後始末をしないと。ああ、憂鬱だなぁ。説明は後でします。そのための準備もしてきますよ、ヤマトさん」

「……なんで俺の名がヤマトだと?」

男は川畑の顔をみてなにやら得意そうな笑顔を浮かべた。

「履き物に名前が書いてありますよ。私の観察力と洞察力を見くびらないでください」

川畑は自分の足元を見た。

引っ越し屋のダンボールで作ったサンダルだ。

川畑は男の洞察力をあわれんだ。訂正しようかとも思ったが、相手がデンドロビウム三十郎と名乗ったことを思いだしたので、名前の件は軽く流すことにした。

「それで、俺はどうすればいいんだ」

「まず手を出してください」

男は、川畑が差し出した左の手の上で、軽く手を降った。左の手首の周りに細い帯状の靄が現れ、そのまま手首に吸い込まれる。

「なんだ!?今のなんだ」

「変なものじゃないですよ。監査官用のデバイスで私の予備装備です。待っている間、マーカーがわりに着けておいてください。私が戻って来るための目印ですから」

「いやお前、待ってろって、どれくらいだよ」

「すぐですよ。ちゃんとマーカーがあれば1時間以上ずれません」

「1時間!そんなにここで待つのはイヤだぞ」

川畑は足元の"屋根瓦"を指差した。


「俺は部屋に戻りたいんだ。ちゃんと屋内に送ってくれ」

男は川畑と自分がいる屋根の上から、辺りを見回して、ろくに降りれそうなところがないことを確認した。

男はため息をついて、しょうがないですねぇと、また例の穴を出現させた。

「部屋で待っていてください。くれぐれも変なことをしてまた穴を開けたりしないでくださいよ」

「するか!そんなこと」

帽子の男は疑わしげに眉根を寄せた。が、それ以上は何も言わずに姿を消した。川畑はぼやきながら、それでもサンダルを脱いで、穴に足を踏み入れた。


そして川畑は、花柄のシーツが掛かったベットの上に落っこちた。ベットサイドには……。


着替え中の女の子がいた。


川畑が自分の部屋に戻るまでには、まだまだかかるようだった。

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― 新着の感想 ―
おまわりさぁん
[気になる点] デンドロビウムは、なぜ川畑に"です/ます"調で話し掛けるのですか。必要はないと思うのですが。 そして川畑は何にも分からない状況で、何らかの情報を教えて貰える可能性のありそうなのはデンド…
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