第98話
僕はみんなと別れ、外壁の見張り台に移動する。ここはプレイヤーやNPCが普段入ることが出来ない場所で今は無人だ。これで誰にも見られることなく召喚が出来る。
こっちは準備万端。後はヴェスナーから連絡が来るのを待てばいいだけだな。
「ウィル! すごいたかい!」
「ルキ、危ないからこっち、へ……」
ルキの近くの空間がぐにゃりと歪む。僕は慌ててルキに駆け寄り抱き上げると距離を取る。
「久しいな勇者よ、ぶははは!」
空間が更に歪むと紳士服に身に纏っている仮面を付けたメフィストが現れる。
「なんで?」
「ふむ。勇者が愉快なことをしでかすと思ってな。我の方から来たまでよ! ぶははは!」
メフィストの言葉に呆れた表情になる。こいつ暇だよな。てか、こいつ何処かで見てるのか?
「それよりも勇者よ。何故浮遊城に来ないのだ? 悪魔の招待状をドロップアイテムとして置いといて筈なのだが」
「あー……それなら夏樹が売ったよ?」
そう言うとメフィストの手から杖が落ちた。
「あのちんちくりんの勇者め……! その根性叩き直してくれよ! ぶははは!」
いやいやお前悪魔だよな? 悪魔が根性を叩き直すって……
いちいち指摘するのも疲れるから黙っておこう。
「メフィスト、今は止めて」
「我を止めるのか? 勇者よ」
普段抑えている禍々しいオーラを放つメフィストに一歩引きそうになる。
「い、今だけ! 今だけだから! その後なら好きにして――」
「なに、お主を好きにしていいと! ふむ……よかろう。お主に免じて大人しくしておこうではないか!」
「待て待て待て、なんで僕なんだよ!? てか、勝手納得しない欲しんだけど!」
その時、通知の音がして宛名を見るとヴェスナーからだ。あっちの準備が整ったようだ。
メフィストに色々と言いたいけどそれどころじゃない。
僕は武器を構え空に向かって召喚する。
「来い、セイリュウ!」
「グラァァァァ!」
セイリュウは滞空して僕の方を見ると、風の力で僕とルキをふわっと浮かせ頭に乗せる。僕は急いでフードを被り顔を隠す。本当は見張り台から指示をする予定なんだけど……まぁいいか。
セイリュウの角にしっかりと掴み、ルキを腰にしがみつかせる。
「セイリュウ、重くない?」
「グラァ」
どうやら重く無いようで安心した。
「セイリュウ、僕達で敵を引き付ける。城に向かってお前の最強の技をぶちかませ」
セイリュウは凄い速さで雲に突っ込み。冷たい風で顔が痛いけど我慢だ。
そのまま分厚い雲を抜けると青空の下に出る。再び滞空するセイリュウから薄緑の光が発せられると雲が城を中心にグルグルと回り出し所々で稲妻が発生しだすと城に落ちまくる。これがセイリュウのレベル50で使えるようになるスキル【神獣の一撃・天嵐】だ。下を見ると城から鎧を着た者たちが出てくる。僕は急いで鑑定した。
スカルナイト……予想通りに敵モンスターが出てくるとはな。NPCなら当たらないように操るけど全員敵モンスターならしなくていいな。
稲妻は一撃で次々とスカルナイトを倒していく。
「ほう。流石はゴッドクラスだな勇者よ! ぶははは!」
いつの間にかメフィストは僕の隣で悪魔の翼を生やして飛んでいた。
「グラァ……!」
セイリュウはそんなメフィストに威嚇しだし何発か稲妻を向けるが簡単に避ける。
「セイリュウ、落ち着いて」
そう言いながらセイリュウの頭を撫で宥める。
「面白いのが出現するぞ勇者よ」
「ん?」
そう言われ地上を見ると紫色の光を発している魔法陣が現れ、そこから大量の黒い鳥がこちらに向かってくる。
「あんなのがいたんだ。引付け役して正解だったな。来い、スザク!」
セイリュウの稲妻で撃墜しているが数が多すぎて間に合わないと思いMPを半分消費してスザクを召喚した。すかさず、インベントリからMPポーションを取り出しセイリュウを回復させる。
目線があったスザクは僕の意図を読み取り赤く光りだすと、翼を体の前で折り曲げ交差させ、一気に広げると青い炎を纏った衝撃波を黒い鳥の群れに放つ。スザクの【神獣の一撃・蒼焔】だ。
スザクとセイリュウのおかげで黒い鳥は全て撃墜した。
「流石だ、勇者よ! ぶははは!」
「全部倒せ、た?」
メフィストの言葉を無視して辺り見回すと空間が歪み、黒い執事服を着てコウノトリの頭をした得体のしれない者が姿を見せる。
僕は急いで鑑定した。そこには浮遊城デモニオキャッスル第四十四階層ダンジョンボス――シャックスと名前が表記されていた。
「私たちの計画を邪魔しないでいただこうかメフィスト殿」
見た目と反してしわがれているが繊細な声で話すシャックスはメフィストに尋ねる。
「我は傍観の身だ。全ては勇者がやったことよ。ぶははは!」
「勇者とな?」
鋭い目でシャックスが見てるくる。
「ほう……ゴッドクラスが二体。それにその方は……」
シャックスは僕の腰でしがみついているルキに視線を移す。
「よかろう……私はシャックスと申す。浮遊城デモニオキャッスル第四十四階層ダンジョンボスを務めるいる者だ。実力を見せてもらおうか勇者……」
シャックスは殺気を僕に向けてくる。戦いは避けれないか。それにこいつは「私たち」と言った。てことは、他にもいるはずだ。夏樹達が心配だけど、こいつは僕が抑えないとな。
「スザク、セイリュウ。行くよ」
「グラァ!」
「ピィイ!」
二体は力強く鳴き返事をする。なんとも心強いな。




