第96話
土曜日の朝。ぐっすり眠ってスッキリした僕は体を伸ばした後、時計を見ると朝十時前だった。
少しばかり仕事が忙しくなり結局今日までログインが出来なかった。もう平日はログインしないで、土日でガッツリやろうかと思う今日この頃。まぁそれよりもお腹空いたな……
体を起こし部屋を出た僕は階段を下りていると居間の方で騒いでいる声が聞こえる。
両親は親戚の家に行ってていない。てことは、夏樹の友人か?
夏樹が友人を連れてくるなんて珍しいと思いつつ居間に向かうと、夏樹とブレザー姿の男子三人と女子一人が居間でゲームをしていた。そして、四人のブレザーに見覚えがあった。
あれって夏樹が卒業した高校の、だよな? てことは、後輩?
扉の前で考えていると女子と目が合う。
「夏樹、お兄さん起きてる」
「ん? お、兄貴やっと起きた~」
夏樹はコントローラーを床に置き立ち上がる。
「朝飯準備するから待ってて」
「うん……って、そうじゃなくてこの人達は夏樹の後輩?」
「一応後輩だけど、学校では関わりはないかな?」
「そうなの?」
「うん。当ててみてよ」
夏樹はそれだけ言って料理をし始める。僕は四人を見るも全く一致する人物はいなかった。
「俺達っちすよ、ウィルっち!」
「史季っ! 敬語使えって打ち合わせしたじゃん!」
「いいじゃないすか、颯斗のケチ!」
ちょっとチャラチャラしてそうな男子が口を開くと他のメンバーよりも幼い顔をしている男子が注意をした。
今のやり取りでこの人達が誰なのかやっとわかった。
「えっと……ヘストとセゾン?」
指をさしながら当てていく。
「そうっす! セゾンこと鯨卧 史季っす! よろしくっす!」
「言った傍から……すいませんお兄さん、後で叱っときます」
「気にしてないよ。喋り方はあっちと一緒でいいよ。それよりも君がヘスト?」
「はい! 秋篠颯斗です!」
「ていうことは、こっちがヴェスナーで、こっちがクシュ」
爽やかイケメンの男子と大人しそうな女子に言う。
「正解~。俺がヴェスナーの春日部陽。で、こいつがクシュの冬賀楓」
「よろしく」
改めて見るとゲームの容姿となんとなく似ている気がしてくる。
「夏樹から聞いていると思うけど兄の亜樹です。よろしく」
一通りに自己紹介を済ますと朝食が出来上がって食べ始める。
食べながら気になったこと夏樹に尋ねた。
「いつ知り合ったの?」
「今週~。用事で母校近く寄ったから担任に挨拶してたら、ね?」
「先生が夏樹の名前を呼んでて見た目も似てたから声掛けてみたらって感じです」
ヘストが補足説明してくれた。
「そうなんだ。それで、今日はなんか用事あるの?」
そう言うと四人が一斉に夏樹の顔を見る。
「あ……言うの忘れてた。えっと……ヴェスナーよろしく」
「丸投げした――! ちょっとお兄さん! 弟さんの教育どうなんってんの!」
「兄貴に迷惑を掛けるな!」
「あはは……」
二人のやり取りに苦笑する。
「えー、丸投げした弟さんに代わりまして――」
「弟っていうな!」
「痛っ! 殴ることないじゃん!」
「うっさい!」
話が進まないと思っているとクシュが口を開く。
「問題が発生したの」
「問題?」
詳しく聞くと《氷結の森》に行った翌日から何故か城に入れなくなってしまったようだ。
運営に問い合わせしたものの、返答はなかなか来なくてすぐ直ると思い様子見を決めた数日後にヴェスナー達のハウジングに一通の手紙が送られてきた。
そこには「助けて」と一言だけ書いており、それに付随してなのかイベントクエストが発生したそうだ。
「王女様の救出?」
「うん、黒幕を倒してシャルを救出するのが条件」
「楓、違うから。黒幕は倒さなくてもいいんだって」
クシュは頬を膨らます。
「颯斗五月蠅い。絶対倒す。許さない……」
相当怒っているようだ。クシュと王女様は仲がいい。怒るのは当たり前だ。
「それに参加すればいいんだね?」
四人は頷く。
「わかった、これから行くんだろう? そうすると一旦家に帰る――」
「ヘッドギアなら持ってきてるっす!」
四人は鞄からヘッドギアを取り出し見せてくる。
「PC、二つしかないけど出来るの?」
「同時に三つまでは接続出来る。兄貴の方にヘストとクシュ、俺の方にヴェスナーとセゾン」
「わかった」
早速部屋に向かい別れて入る。
押入れから布団一式を二つ取り出して広げる。その間に二人のヘッドギアを受け取り、夏樹に教えて貰ったやり方で接続していく。これでいいのかな?
そう思っていると夏樹が入ってきて確認してもらった。
「問題ないね。クロウカシスのギルド前で集合だから」
そう言って夏樹は部屋を出て行く。
「二人とも平気?」
「はい、平気です」
「ウィルの匂い、落ち着く……」
「確かに……なんか安心する……」
布団の上で横になった二人が変なことを言っている。多分洗剤の匂いだと思うけど……
「へ、変な事言ってないでログインするよ?」
「はい、ごめんなさい……」
「はーい」
ヘストは自分が恥ずかしいことを言っているの自覚して謝る一方、クシュは気にしてないようだ。
僕達はヘッドギアを装着してログインする。




