第91話
凍り付いた木々の中を進んでいくと先頭にいるヴェスナーが急に止まり盾を構え、盾の中に収納されている片手剣を取り出す。
ヴェスナーの視線の先を見ると全身白い毛皮の熊が二頭いた。
「あいつらはフロストベア。大きい図体の割に意外と早くてブレスもあるから気を付けろ」
いつにもまして真剣な声でヴェスナーは注意を促す。
「って、言った傍からブレスかよ! ラティノア!」
「承知した!」
フロストベアは口を開けその中心で氷が集まって大きくなっていく。
「「【センチネル】!」」
二人はスキルを使うと黄色い光に包まれ盾を構える。
「セゾン、いつもの頼んだ! クシュは隙を見つけ次第だ!」
「分かってるっすよ」
それだけ言うとセゾンはその場から姿が消える。
クシュは頷き、フロストベアを見据えて弓を番える。
「来るぞ!」
二頭のフロストベアから氷塊が放たれ凄い勢いで向かってくる。
二つの氷塊をそれぞれが受け止めた。
「重っ……! シャル! バフを頼む!」
「はい! プロテクト!」
王女様が魔法を唱えると二人の体が青い光に包まれる。
僕は王女様を守るようにとしか言われてないけど、こっそり皆にファイアーアップとストーンアップを掛けとく。
「おーりゃ!」
「はっ!!」
二人は氷塊を捌き防ぎきる。
すると、クシュは透かさず矢を放つ。フロストベアに向かって飛翔する矢は途中で四本に分裂してフロストベアに刺さる。
「後ろがら空きっすよ!」
姿を消していたセゾンが一頭のフロストベアの背後に現れ後ろ脚を斬り、フロストベアは態勢を崩す。
もう一頭のフロストベアが反撃しようと前足で薙ぎ払うがセゾンは後ろに飛び躱す。セゾンが一定の距離を離すと五つの炎の槍が攻撃したフロストベアを襲う。
炎の槍が命中したフロストベアのHPは無くなりドロップアイテムを残し消えた。
「ヘスト、やるなー。俺も負けてられねぇ……ラティノア後は任せた!」
「え! ちょっと!」
ヴェスナーは突然走り出し片手剣を盾に仕舞う。盾の下部分が開くとヴェスナーは凍った木の上の方に向けるとワイヤーが打ち出され勢いよく空中に飛んでいく。
フロストベアの頭上に到着すると盾が更に変化して大剣になり、落下の力も加え振り降ろしフロストベアの叩き斬る。
フロストベアの二頭を倒し終え僕は安堵した。
「ウィル、なにかした?」
クシュが近づき尋ねる。
「攻撃力が上がるファイアーアップと防御力が上がるストーンアップぐらいしかしてないけど?」
僕の返答に納得がいってないのかクシュは頭を傾げる。
「そんなはずない。私の攻撃、そんな威力ないのに硬い毛皮貫通してた」
「あーー言ってなかったことが一つあった」
クシュは頭を傾げる。いつの間にかみんなの視線が僕に集まいるのに気が付く。
「召喚獣を召喚している時としていない時だと魔法の効果が大きく上昇するんだよ」
「どれくらい?」
「うーん。説明するよりも見てもらった方が早いんだけど。じゃあまず召喚獣なしでやってみるよ」
スザクを一旦戻し僕は木に向かってファイアーボールを放つとサッカーボール並みの大きさの火の玉が飛んでいき木に直撃。
「ヘスト、あれ普通の攻撃?」
「うん、そうだけど?」
「ん。ウィル続けて」
スザクを再び召喚する。一旦戻したことで元の大きさに戻っていた。
「一応、ヴェスナーとラティノアさんの後ろにいてもらえるとありがたいんだけど……」
「そんな威力上がるの?」
「たぶん……」
召喚士になってから未だに召喚獣ありでは使ってないけど、ギルドでのスザクが唱えたファイアーボールを見ると、ね。
皆が避難したのを確認してから僕は右手を翳し魔法を唱えると特大の火の玉が生まれ木に向かって放つと着弾地点から周囲を巻き込んで大爆発する。ビャッコは土壁を作り爆風を防いでくれた。
爆風も収まり煙が晴れると辺り一帯の木々が消え、ドロップアイテムも散らばっていた。
「とんでもない火力だな……取り敢えずウィルは今回、ピンチな時以外は攻撃魔法禁止な?」
「そ、そうするよ」
周りを巻き込んでもダメージは無いけど爆風とかは影響してしまうから自重を決めた。
「これがゴッドクラスの力……もはやチート?」
「そーっすね。チートすねこれは……」
「ウィリアムさんすっげぇ! 俺も負けてられないな!」
クシュとセゾンがチート判定する中ヘストは何故かやる気に満ちていた。
僕は内心苦笑した。
「ウィル、カッコいい!」
「ありがとう、ルキ」
ルキにカッコいいと言われ少しだけ癒された。
「ウィリアムさん、是非私の騎士団に――」
「全力でお断りします」
王女様の勧誘をすぐさま断る。
「そ、そんな……」
「まぁまぁ、そんじゃ再開すんぞー」
ヴェスナーの言葉に頷き僕達は爆発現場を離れダンジョン攻略を再開した。




