第90話
村に転移した僕達はダンジョンに足を向ける。
その道中でヴェスナーからダンジョン《氷結の森》の説明を受けた。
《氷結の森》に出現する敵モンスターは全て氷属性の魔法やスキルを使用する。
そして、厄介なのがそれを受けると低確率で体の一部が凍って動けなくなるか、もしくは動きが鈍くなってしまう凍結デバフだ。しかし、この凍結デバフは無効アイテムを使えば簡単に対策が出来てしまうようだ。
「俺達の装備は凍結デバフ無効付いているから問題ないけど、二人は?」
ヴェスナーが王女様と女騎士の二人に尋ねると頷き返す。
ヴェスナーの口調が普段通りになっているのは王女様とひと悶着あったからだ。
「二人は問題ないと。ウィルは?」
僕は首を横に振る。
「フレイムアップ使える?」
「フレイムアップ? じゃないけどファイアーアップなら使えるけど……」
ヴェスナーはヘストに頭を向ける。
「ヘスト、ファイアーアップでも行けたっけ?」
「ファイアーアップは攻撃だけ上がるから無理だね。ウィリアムさんこれを」
へストから雪の結晶を模したアイテムを渡され受け取る。綺麗だな。
「それが凍結デバフ無効アイテム。使用制限あるから気をつけてください。いているんで心配ないです!」
歯を剥き出して笑みを作るヘスト。頼りがいがあるな。
僕はつい手が伸び頭を撫でた。
「あ、ごめん」
「あ、いえ……なんか懐かしい感じがして、大丈夫です……」
ヘストを頬を掻く。
「ルキモ!」
「ガオ!」
すると、そのやり取りを見ていたルキとビャッコは頭を差し出す。
「わかったよ」
ルキとビャッコの頭を撫でていると何故かクシュとセゾンを中腰の姿勢になって頭を差し出してきた。
「なにしてんの二人とも?」
「え、いや~~撫でてくれるかなって思ってなんすけど、どうぞっす!」
「ん!」
「仕方ないな……」
仕方なく二人の頭を撫でた。
「なんでウィリアムさんに頭撫でて貰っているんですか? 年下なのでは?」
ヴェスナーの隣にいる王女様の話声が聞こえる。
「ん? ウィルが年下? 俺らの中では一番年上だけど?」
「ええええ! 背が低いからてっきり……私はなんて勘違いを……!」
「あー、多分本人に聞こえているから謝っとけば?」
はい、ばっちり聞こえています。ちょっとだけ傷つきました。
ちらっと見ると王女様と凄い勢いで頭を何度も下げている。ちなみに後ろに控えている女騎士も目が見開いていた。どうやら王女様と同じことを思っていたようだ。
そのあと二人に謝られ僕達はしばらく雪原を歩くと氷漬けの木々が集まった森が見えてくる。色んなプレイヤー達がダンジョンに入っていく。
「編成を発表します! 前衛は変形盾士の俺と聖騎士のラティノア。基本は俺がタゲを取るからラティノアはサポートに回ってくれ」
「承知した」
ヴェスナーは続ける。
「攻撃役に暗殺者のセゾンと狩人のクシュ、それと爆炎魔導士のヘストの三人」
「了解っす」
「ん」
「任せて」
ヘスト達のジョブを何気に初めて聞くよな。三人は何となくわかるけどヴェスナーの変形盾士って何だろう?
そう思い僕はヴェスナーが装備している武器を視線を移す。
「で、回復役にシャル。護衛にウィルにするけど意見あれば言ってくれ」
「特にないけど、召喚獣もう一体出しておく?」
「出せるようになったんだ。そうしてもらえると助かる」
そう言われ誰を出すか考えるが、火属性のスザクが良いと直ぐに思い付きスザクを召喚する。
「ピィイ!」
大きい姿のスザクは召喚すると直ぐに小さくなり僕の右肩に止まる。
「小さくなれるんだ。スキルかなにかか?」
「うん。スキルなんだけど、いつの間にか覚えていたんだ」
「ふーん。まぁいいか、そんじゃ――」
「待ってください!」
突然、王女様が大声でヴェスナーを止める。
「あのウィリアムさん、その召喚獣は南方を守護すると言われている伝説の神獣――スザクですよね?」
「そ、そうですけど?」
すごい剣幕に少し引いてしまった。
「ビャッコにスザク。もしかして、他にも二体の召喚獣をお持ちではないでしょうか?」
「は、はい」
そう言うと王女様は目を輝かせた。
「是非、みせて――痛い。何するんですかヴェスナー様……」
ヴェスナーが王女様の頭を軽くチョップしてくれたおかげで流れが止まった。
「それはダンジョン終わってから。時間も多くないんだから行くぞ!」
先に入ったヴェスナーの後を追いかけて僕達はようやくダンジョン《氷結の森》に足を踏み入れた。




