第82話
「「わあああああ……あ?」」
落ちると思ったら直ぐ地面という予想外の事が起きて一瞬呆けてしまった。
「直ぐ地面って……びっくりしたーー」
「あはは……」
「ウィル! ナツ!」
ビャッコの背から降りたルキは僕達に駆け寄って心配する。
「なんとか平気だよ。ルキとビャッコも怪我ない?」
「ビャッコといたからケガない!」
「そっか。ありがとなビャッコ」
お礼を言いながらビャッコの頭を撫でてやると嬉しそうな表情になる。
「兄貴、あっちに行くみたいだよー」
夏樹が指さす方を見ると薄い光を放つ道が伸びていく。確実に誰かが誘導しているの。多分メフィストだろうとは思うけど。辺りを見渡しても何処にも道がない。
「行くしかないか……ルキ、ビャッコの背中に乗って」
「うん!」
ビャッコはルキが跨りやすいように伏せる。しっかりとルキが乗ったのを確認したビャッコは立ち上がった。
夏樹を先頭にビャッコとルキを真ん中にして道を進む。
「兄貴、明かりが見えてきたよ」
しばらく進むと先頭にいる夏樹が言う。
「様子見てくるから待ってて」
「了解。気を付けて」
「わかってる」
夏樹は音を立てないように進んだ。
「兄貴! 来てくれ!」
夏樹に呼ばれ僕とルキとビャッコは夏樹の元に向かう。
「どうした?」
「ここ、三階層のボス部屋」
そう言われ見回すと中央には祭壇が設置されている。確かにダンジョンボスの部屋なのだがメフィストの姿はなかった。
「メフィストいないようだね」
「うーん。正規ルートじゃないから出ないか、本当に留守なのか。てか、ダンジョンボスが留守ってなんだよ! 出てこいよ!」
夏樹がそう叫ぶとガコンっと祭壇から音がした。
僕達は祭壇に近づくと中央に下に降りる隠し階段が出現していた。
「来いってことだよな」
「あんにゃろ。一発殴ってやる!」
夏樹は階段を駆け下りて行く。
「お、おい! ……ったく。ビャッコ、ルキ、後を追うよ」
「うん!」
「ガオ!」
僕達は急いで後追うと扉が目の前に現れゆっくり開けると、そこは浮遊城で囚われていた時のメフィストの執務室だった。椅子に座りながら優雅にティーカップを啜っているメフィストがいた。
「よく来た勇者よ! ぶははは!!」
ちょっと絵になると思ったけど、今の笑いで全て台無しだな。
「あれ、夏樹は?」
先に来ている筈の夏樹の姿が何処にもない。
「あ奴なら、我が迷宮の中で彷徨っておるぞ! ぶははは!!」
メフィストはパチンと指を鳴らすと目の前にスクリーンが現れ、夏樹が叫びながら走っている様子が映っていた。
「メフィスト、話がややこしくなるから夏樹を戻してあげて」
「ふむ。仕方ない」
メフィストはもう一度指を鳴らすとスクリーンが消え、頭上に大きな穴が開くとそこから夏樹が落ちてくる。
「いてて……ここは……ってメフィストいたーー! 一発――」
「はい、続きは後にしてとりあえず落ち着け夏樹。静かにしないと怒るよ?」
飛びかかりそうになった夏樹は止まり、渋々とソファーに座った。
「ふん。血気が盛んなのはいいぞ勇者よ! 我と死闘を繰り広げようではないかっ! ぶははは!!」
「望むところだ!」
話が進まないんだけど……
「やるなら好きなだけやってていいから、その前に僕の質問に答えて欲しんだけど」
「勇者が聞きたいのはその子の事だろう? 悪いが我の口からは言えぬ! ぶははは!!」
少しは期待したけど予想通りの答えが返ってきた。
「その子を頼んだぞ勇者よ」
「お、おう」
聞いたことないような優し気な声に少し動揺した。
「さぁ死闘を繰り広げよ勇者よ!」
「返り討ちにしてやる!」
二人は執務室から一瞬で消え取り残され僕とルキとビャッコ。元来た道を戻ればいいのかな。
ルキとビャッコの頭を撫でる。
「戻ろう。ルキ、ビャッコ」
「大丈夫なの?」
「ん? まぁ大丈夫じゃないかな~」
そう言いながら僕は歩みを進めた。
ちゃんとビャッコも後ろからついてくる。
「なんで! お前レベル50なんだよ!」
「ぶははは!! 我に勝ったら教えてやるぞっ!」
「あぶねーなっ!」
祭壇に戻ると夏樹とメフィストが激しい戦いを繰り広げていた。
消えたと思ったらここで戦っていたのか……
巻き込まれると面倒だし壁側に寄って避難しとくか。今すぐに出たいけど扉は閉まって出れない。脱出用の転移結晶アイテムも使えない。二人の戦いが終わるまで待つか。被弾があるかもしれないし壁を作っておこう。
それからしばらく経ったが二人の戦いは終わらなかった。いつ終わるんだろう……
時刻を見ながら僕はそう思った。




