第8話
「おかえりアルナ」
「ただいま! 見て見て!」
アルナさんはじゃーんって言いながら両手につけている黒い輝きを放つナックラーを見せる。
「どう? かっこいいっしょ?」
「はい、かっこいいですアルナさん。それとジョブクエストクリアおめでとうございます」
「へへっ! ありがとう!」
アルナさんは物凄く嬉しいのかニヒっと歯を見せて笑っていた。
その時僕の肩に止まっていたスザクがアルナさんの所まで飛んでいく。アルナさんは慌てて手を差し出すとスザクは手に止まった。
「チュンチュン!」
スザクは羽を広げアピールをしている。なんか嬉しそうな表情しているな。
「ん? どうしたのこの子?」
アルナさんにはスザクが何をしているかが分からず僕に尋ねてきた。
「多分ですが、スザクなりに祝っているんじゃないですか?」
僕は目線を送るとスザクは頷いた。
「そうなんだ! ありがとうスザク!」
「チュン!」
スザクはアルナさんに伝えたかったことが伝えられ嬉しそうだ。
「あの、ウィリアムさん……今、ファイアーバードのことスザクって言いませんでした?」
やってしまったと僕は内心で呟いた。どう誤魔化そうか考えているとアルナさんが言う。
「ウィルがこの子に付けた名前でしょ?」
「召喚獣には名前を付けれないのよアルナ。本人がそう呼ぶのは自由だけど、それならもっと呼びやす名前にするでしょ?」
「うーん、人によるんじゃない?」
「そ、それにスザクって名前の召喚獣って実際にいるのよ?」
そう言うとアイリスさんは何かのウィンドウ画面をアルナさんに見せている。なんだろう?
「本当だ。実際にいるんだね。でも、名前しか情報無いのにウィルの召喚獣がスザクって決めつけるのはどうかと思うよ?」
「うぅ……でも、でも! どうなんですかウィリアムさん!?」
ややムキになってるアイリスさんが尋ねてくる。
「えっと、その……ごめんなさーい!」
僕は逃げるようにギルドを飛び出し無我夢中でファルトリア走った。
「逃げちゃったな……はぁ……」
走り疲れた僕は砂場しかない無人の公園で休むことにした。そして僕はスザクを置き去りにしてしまったことに気づいた。
「どうしよう……今から戻るのもな……再度召喚し直すか?」
「チュンチョン!」
「スザク……!」
上から鳥の鳴き声が聞こえ頭を上げると赤い小鳥のスザクが飛んでくる。そして、そのまま右肩に止まった。
僕はスザクの頭を撫でながら言う。
「置き去りにしてごめんスザク……って痛いっ! それ痛いからやめて!」
謝るとスザクは僕の耳たぶを嘴で挟んでくる。
気が済んだのかスザクは嘴を離してくれた。僕は赤くなった耳たぶを押さえていると上から人が降ってくる。
土煙が晴れるとそこにはアルナさんが立っていた。
「ウィル発見!」
「アルナさん!? なんで上から!?」
当然の疑問を尋ねるとアルナさんは洋服に着いた砂埃を掃ってから答えた。
「そりゃあ、スザクを追って屋上を渡って移動していたからだよ!」
「そ、そうですか」
アルナさんは笑顔のまま歩いてきて僕の隣に座って、立っていた僕に座るようにベンチを叩く。
僕は少し距離を置き座った。
「さっきはごめんね。アイリスが無理に聞いてしまって。それにウィルも逃げ出したのは良くないと思うなぁ。あれじゃあ肯定しているよなものじゃん!」
「あはは……昔から嘘が苦手で……」
「ああ、苦手そうな顔してるよね~」
どんな顔だよと思ったけど僕は口には出さなかった。
「じゃこの子はゴッドクラスのスザクで合ってるの?」
僕はスザクの頭を優しく撫で答える。
「……はい、そうです」
「そっか。教えてくれてありがとうね」
よいっしょっと言いアルナさんは立ち上がる。
僕は慌ててアルナさんに言う。
「アルナさん! あの、この事は――」
「わかってる! 誰にも言わないよ。それにアイリスにも口止めしとくよ!」
アルナさんは見惚れてしまいそうな笑顔で振り返り、いいことを思いついた様な表情に変わる。
「あ、そうだ。言わない代わりに一つお願い聞いてもらってもいい?」
「お願い、ですか……?」
一体何を言われるのか僕は固唾を呑む。
「うん。私とフレンドになってくれない?」
「……へ?」
意外なお願いに僕は素っ頓狂な声を出してしまった。
「ダメ?」
「え、ええ。大丈夫です……」
「やった! 今フレ申請送るね」
僕が承諾するとアルナさんは喜んだ。そして、鼻歌をしながらフレ申請を送られ僕はすぐに【承認】を押しアルナさんとフレンドになった。
「ふふ、これでフレンドだね! よろしくねウィル!」
「よろしく、お願いします」
「じゃあ私は帰るね! 今度レベル上げでも行こうね! じゃあーね!」
「はい!」
急いで言うアルナさんに一言だけ返した。
アルナさんは緑色の転移結晶のアイテムを使い一瞬で消えた。
「嵐のような人だったねスザク」
「チュン」
スザクも思っていたのか頷いて同意してくれた。