第76話
部屋に入ると中央にサッカーボール並みの水晶が置かれているだけの殺風景な部屋だ。
受付嬢に水晶の前に行くように言われた。
「では、この水晶にお一人で触れてください」
「わかりました」
そう言われ僕は握っているルキの手を離しルキの目線の高さを合わせる。
「ルキ、すぐに終わらせるちょっとここで待っててくれる?」
「うん……」
不安そうなルキに微笑みながら頭を撫でてから僕は水晶の前に立つ。
「触れます」
僕は水晶に手を伸ばし触れると少しずつ光始める。そして、光は段々と強さを増しいった。
「ウィル!」
後ろにいるルキの声が聞こえ、振り返るとルキは僕の下に走ってきて腰辺りに抱きつき、僕とルキは強い光に包まれた。
光が収まると部屋だったところは天所も壁も床も白一色に染まり、方向感覚が失いそうな場所になっていた。
「あれ、ルキは?」
僕に抱きついていたルキの姿が無く不安が込み上げルキの名前を叫んだ。
「ルキーーー! 何処だーーー!」
だが、いくら名前を呼んでも返事はなかった。
ここにいないなら弾かれてきっと、あの部屋にいるはずだ。さっさと終わらせて無事かどうか確認しなきゃだな。
そう思っていると上の方から左右に二枚ずつの白い羽を持つ長髪ブロンドの人が降りてくる。
顔の部分はぼやけていて性別が判断できない。この人が夏樹が言っていた与えし者なのかな?
『汝、試練を挑みし者。名とジョブを述べよ』
頭に直接語りかけてくる感覚に戸惑う。
「名はウィリアム・トワイライト。ジョブは召喚士見習いです」
『汝、力を持って敵を薙ぎ払い、試練を越えてみせよ』
それだけ言って与えし者が消え、魔法陣が現れると十メートル程の高さの炎の一つ目の巨人が出現した。
こいつを倒せばいいかな?
僕は鑑定すると、名はフレイムサイクロプス。敏捷と知力は低いが体力、攻撃力、防御力は高い。
弱点は不明だがフレイムということは火属性だよな。水が弱点かな?
「来い、ゲンブ!」
「カメ!」
召喚されたゲンブはいつも通りに頭の上に乗っかる。
「ゲンブ、最初から全力でいくよ」
「カメ!」
僕は手を床に魔法を使う。
「【四神の領域・海嘯】!」
僕を中心に水が波打つように広がって行き、床が水浸しになる。フレイムサイクロプスの足元は水が蒸発して白い煙が上がっている。
フレイムサイクロプスは僕を敵と見定め向かってくる。すかさず魔法を使う。
「ウォーターロック!」
周囲の水も利用して特大の水球を作り、フレイムサイクロプスを包み込み。
フレイムサイクロプスは水球の中で暴れるが伸縮性もあって抜け出せないでいる。HPは少しずつ減っていく。
暴れていたフレイムサイクロプスは腕を下ろし動きが止まる。諦めたか?
その瞬間、フレイムサイクロプスの体は段々と赤みが増し、水が沸騰し始める。
「急いでいるんだから、大人しく掴まっていろよ……アクアランス!」
周りの水を利用して水の槍を大量に生成する。ゲンブも協力してくれて水の槍がドンドンと増えていき、一斉にフレイムサイクロプスに目掛けて放つ。
「グオオオオオ……!!」
フレイムサイクロプスは一瞬で燃え上がり水球から脱出するが水の槍が体中に刺さりHPを半分削った。
フレイムサイクロプスの目は怒りに燃え上がっている。そりゃそうなるよな。
「ウォーターコントロール」
手を空に掲げ蒸発した水を上空に集め雲を作り出し雨を降らす。
フレイムサイクロプスは口を大きくと灼熱の玉を僕に向けて放つ。急いで横に回避して避けるが、着弾したところが爆発し水を舞い上がらせた。今の当たったらやばいな……
フレイムサイクロプスは二発目を放とうとしているの視界に入る。
「カメメ!」
放たれる瞬間、ゲンブは複数の水の槍をぶつけ相殺する。
「ありがとな、ゲンブ」
「カメ!」
リングのおかげでMPは半分まで回復、ゲンブはほとんど減っていない。フレイムサイクロプスのHPは残り三分の一だ。あれで、仕留めれるかな。
「ゲンブ、やるよ」
ゲンブは頷くと水の中に消えフレイムサイクロプスの背後に回る。
フレイムサイクロプスは口を開け灼熱の玉を溜め始める。
再び水浸しの床に手を置き僕はカンストしてようやく使えるよになった魔法を使う。
「【神獣の一撃・瀑布】!」
魔法を唱えると空は暗くなりそこからバケツがひっくり返してように大量の水がフレイムサイクロプスに降り注ぐ。
「カッメ!」
更に背後に回ったゲンブも同じ魔法を使いフレイムサイクロプスにぶつける。激しい水の勢いに負けフレイムサイクロプスは押し流され壁に激突。水が収まるとフレイムサイクロプスのHPを削り切った。
水が消え、びしょびしょだった全身が一瞬で乾くと与えし者が再び現れた。
『見事だ。汝、新たなジョブに満足することなく極めることを怠るな』
与えし者から強い光が放たれ僕は思わず目を瞑る。
「お疲れ様でした。ジョブクエスト達成おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
光が収まり、目をパチパチとさせていると受付嬢に話しかけれた。元の部屋に戻ってこれたようだ。
腰辺りに目を瞑ったまま抱き着いているルキを見て僕は胸を撫で下ろした。僕は頭を撫でた。
「ただいまルキ」
「っ! おかえり!」




