第74話
重い瞼をゆっくりと開ける天井が視界に入る。
頭だけを動かして周りを見渡すとルキの顔が隣にあった。
気持ちよさそうに寝ているルキの表情をみて胸を撫で下ろす。
「ガウ!」
「ビャッコ、無事でよかった。ごめんな、お前の事守れなくて……」
僕はビャッコの頭を優しく撫でながら謝ると、ビャッコは顔に近づきペロペロと舐めだす。
気にするなと言っているようで僕はビャッコが飽きるまで舐めさせてあげる。おかげで顔中ベタベタになってしまったが気にしない。
「ん…………ウィル? ウィルだ!」
ルキは目を覚ますと僕に抱き着いてくる。僕の顔に頬を押し付けたせいでルキの顔もベタベタになってしまう。あ~あ。
体を起こしルキの顔を布で拭っていると扉がノックされ夏樹が入ってくる。僕と目が合った瞬間夏樹が駆け寄ってくる。ルキは僕の後ろに急いで隠れる。人見知りなのかな?
「兄貴、やっと目が覚めたんだな! 兄貴を見つけた時はHPは一しかなくて気絶してからめっちゃヒヤッとしたんだからな」
「あはは……こっちも必死だったからなぁ。ここって僕達の屋敷だよな。夏樹が運んでくれたのか?」
「アルナ達にも手伝ってもらった」
「そうなんだ、後でお礼を言わなきゃだね」
「それと、兄貴に伝えないといけないことがあるんだ……」
夏樹は語ってくれた。
第三、第四試合が終わり夏樹とアルナさんの準決勝が行われている最中、浮遊城から突然の光と浮遊城からの爆発音が聞こえ、僕の身を案じた二人は試合を放棄。
僕を探しに《蜜柑の園》のメンバーと夏樹とヘストでアテムアさん自作の超高性能の船を出し、浮遊城の真下の海を探索すると、手の形をした岩の上に僕とルキと尻尾を振っていたビャッコを見つけたそうだ。そして、屋敷までに運んで今に至ると。
「爆発音が聞こえたら居ても立っても居られなくて、試合を放棄した。ごめ――」
夏樹が最後まで言い終わる前に頭に手をそっと置き撫でる。
「謝るのはこっちだよ夏樹。弟の大事な試合を棄権させてしまったなんて兄として失格だなぁ」
「兄貴は悪くない。悪いのメフィストと兄貴を連れて行った奴なんだから」
僕達はしばらく笑うとルキが洋服を引っ張る。おっと、忘れてた。
「ルキ、こっち来て」
「うん」
ルキを呼ぶと僕の前まで来て座る。
「紹介するね、僕の弟の夏樹。で、この子はルキ。あ、本名が分からなくて一時的にそう呼んでいるんだ」
夏樹にルキと会った経緯と浮遊城での出来事を伝えた。
「色々聞きたいことはあるけど、ルキって兄貴が付けたんだ。その子のステータスを見た時、名前以外文字化けしてたから本名かと思ってた」
気になった僕も急いで確認すると文字化けしていた名前の欄は「ルキ」と記されていた。
「最初に出会った時は名前も文字化けしてたんだけど、どういうことなんだろ……?」
「俺に聞かれても分かんねーよ」
僕の隣に座って夏樹は続ける。
「このゲームで名前を付けれるのは今の所、従魔かプレイヤーが製作した物にしか付けれないから、多分この子は前者だと思うけど……あのさ、兄貴なんでこの子は俺をじーっと見てるの?」
ルキは夏樹をじーっと見つめた後指をさした。
「ナツ!」
「それ、俺の事?」
「うん!」
ルキは楽しそうに夏樹の名前――縮んでナツだけど――を呼んだ。
「俺はナツキだって、ナ・ツ・キ。はい、言ってみて」
「ナツ! ナツー!」
「兄貴、この子覚える気ないんだけど……」
「子供ってそんなもんだろう。夏樹だって小さい時あちって――」
「わわわ! 忘れてくれよそんな小さい時ことを!」
夏樹は耳を塞いでそんなことを言う。
忘れたくても忘れないよ。だって、夏樹と初めて会って、初めて呼ばれた時の事を忘れる筈がない。
僕の大事な思い出なんだからな。まぁ本人には言わないけど。
「そう言えば大会はどうなったんだ?」
夏樹とアルナさんが棄権したことで実施フーディアさんとレオルさんの決勝戦だ。どっちが勝ったのか気になり尋ねた。
「試合は途中まであいつ……レオルさんが優勢だったんだけど、フーディアさんが二体目の召喚獣を召喚して逆転勝利。まさか、フーディアさんが二体持ちだったとはな~予想外。白い竜かぁ~多分あれもゴッドクラスだよな」
「そっか。当たったら勝てそう?」
「今の実力だと無理。だから、もっと熟練度あげて強いジョブにする」
「頑張れよ」
「ガンバレ!」
ルキも夏樹の事を応援する。
夏樹は微笑みかけルキの頭に手を添え優しく撫でる。
「そう言えば、兄貴。レベルカンストおめでとう。浮遊城でどんだけ暴れたんだよ」
「え?」
自分のステータスを確認してレベルがカンストしていることに気が付く。
浮遊城を脱出のするときに使った魔法で何体かは倒していたようだ。
痛い思いしたけどけど結果オーライだな!




