第73話
「……オルトさんはそっち側なんですね」
僕は宙ぶらりんのままオルトさんを睨めつけながら言い放つ。
「今から死んでいく貴方に言う必要はありません」
オルトさんはそう言うがその言い方だと肯定しているよに聞こえる。
次から次へと厄介なことが起きるな。てか、対峙していた夏樹ならこの事を知っていたはず。言ってくれればよかったのに……後で説教だな。
「他人を気にするより自分の事を気にしな!」
気が付いた時にはグラシさんは蹴りのモーションに入っていた。
僕は咄嗟に背中を向けルキを庇う。そして、背中に重たい衝撃を受けルキもろとも僕は吹き飛んだ。
「っ!」
このままではルキから壁に激突してしまう。気力を振り絞って体を捻り自分から壁に衝突した。
ズルズルと壁から剥がれ、途切れそうな意識の中、ルキを下敷きにしないように自分を下にし地面に落下した。
「ルキ……怪我、ない……?」
「うん……ウル、いっぱい……大丈夫?」
ウルって……
ルキの間違った呼び方に思わず笑ってしまった。
「ウィリアム。言いにくいならウィルで、いいよ……」
そう言いながら僕はルキの頭を撫でる。
その間にステータスを見ると自分のHPがレッドゾーンに入っていた。
蹴られる寸前にビャッコがストーンアップを使ってくれたおかげで防御力が上がりどうにか耐えることが出来たが無かったら確実にHPは全損してたな。
痛む体を無理矢理起こし遠くにいる者達を見据える。
「俺の攻撃を耐えるとか、面白れぇなおい!!」
遠くでグラシさんは声高々に笑っている。
「ガウ!」
「ビャッコ、さっきはありがとな」
地面の中からビャッコが飛び出し僕の足元まで来たビャッコにお礼を言いながら頭を撫でる。
大量に消費したMPは三分の一まで回復したが、魔法は後二、三回が限度だ。ポーションを飲む暇すら与えてくれないだろうな……
すると、ルキは僕のローブを強く握りしめているのに気が付く。
「ガウ!」
「分かってるよビャッコ。弱音は吐ないし、諦めない。ルキを連れてここから出る」
ビャッコは顔を前に向けるが尻尾は左右に凄く揺れている。
その時、目の前にウィンドウ画面が現れ僕は胸を撫で下ろした。これでどうにか対抗できる。
「なに安心したような顔してんだぁ? お前は俺達にボコられて一生もんのトラウマを植え付けさせてこのゲームを出来なくさせてやるよ!」
それ、ゲームとして終わるんじゃと思い呆れた目線を送る。
「ビャッコ」
「ガウ!」
僕は条件が達成した【一時覚醒】のウィンドウ画面の【YES】を選択すると、ビャッコは雄叫びを上げながら光りだし、光は天高くまで伸びる。やがて、光が収まりるとそこには四、五メートルほどまでに成長したビャッコがいた。
「お前……! 何をした!」
「なんだ、この神々しい気配は……! まるでバハムートが降臨した時のような……はっ! まさか、そ奴もゴッドクラスの使い手か!」
オルトさんは一瞬でビャッコのクラスを見破られたが喋る気はない。
ホールにいる全員が見た目や気配が変わったビャッコに動揺している。この隙に僕はしゃがんでもらっっているビャッコの背にルキを乗せ、ルキの後ろに座り支える。
「おめぇら! あいつを取り押さえろ!」
グラシさんの指示で動き出すがビャッコが雄叫びを上げると全員地面に這いつくばるように倒れ込む。
その光景に妖精の女王が使っていた重力操作を思い出す。
「ビャッコ、重力を操れるのか?」
「ガアアオ!」
「よし、今のうちだ。ルキしっかり掴まるんだぞ!」
「うん!」
しっかり掴まっているのを確かめビャッコに合図を出すと全力で駆け出した。
僕は残りのMPを使い特大の岩の拳を二つ作り合わせる。ビャッコも駆けながら僕と同じことを真似する。出来上がった拳を高速回転させることでドリルようにさせ壁を破壊してそのままの勢いで僕達はようやく外に出ることが出来た。
「ガウ!?」
「え……嘘だろ……!」
しばらくビャッコの背に乗りながら空を落下していき、もうすぐで海上が近づいてくるタイミングでビャッコの体はどんどんと小さくなり元の姿に戻っていく。おかげで僕とルキはパラシュートなしのスカイダイビング状態になってしまう。
「ルキ!」
「ウィル……!」
空中で離れたルキの手を取り、ルキを守るように抱いて僕達は海のど真ん中に落ちた。




