第71話
視界が暗転して気が付くと僕は高級な装飾がされている家具が至る所に置いてある知らない部屋にいた。
ここ、何処だろう……ってそんなことよりも。
「メフィスト……そろそろ降ろしてほしんだけど……」
「ふむ!」
メフィストは僕をソファーに放り投げる。痛みを覚悟するもソファーはふかふかで痛みはなかった。
僕を放り投げたメフィストはいくつか書類が置かれているテーブルに歩き出し、高級そうな椅子に座る。
「我が執務室にようこそ、勇者よ」
僕はメフィストに呆れたような視線を向ける。
ようこそって……そっちが勝手に連れてきたんだろう……
「ここ、メフィストの部屋? ダンジョンボスなのに?」
「お? そうか、言っておらんかったな!」
メフィストは立ち上がりくるっと回り突如マントが現れ翻し口を開け止まる。
「………………ふむ。まだ言えぬようだな。忌々しい! ぶははは!!」
忌々しいと言いつつも楽しそうに笑うメフィスト。
「それよりも、ここって――」
僕が尋ねようとすると扉をドンドンと勢いよく叩く音が鳴り、荒々しい声も聞こえてくる。
「おい、メフィスト! そいつを渡せ!」
僕の胸ぐらを掴み軽々と持ち上げ誘拐した張本人グラシさんの声を聞いてビクッとする。
不安げにメフィストを目線を送るとやれやれとした表情をした。
「この部屋にいれば他の者は入れぬ」
そう言いメフィストは部屋の外に出る。二人の話声が離れていくのを感じて胸を撫で下ろした。
ようやく一人なり、ソファーから立ち上がった僕は扉に近づきドアノブを捻ろうとするがメフィストの言葉を思い出し外に出ることを思いとどまる。仕方なく窓の方に向かう。
「え……嘘、だろ……?」
窓から見えた景色に僕は絶句し声を出してしまう。頂上に浮かぶ太陽に一面に広がる雲海しかなかった。
ここって浮遊城? 変なところに連れてこられたな。ここから脱出できればいいんだけど。
僕はインベントリから転移結晶のアイテムを取り出し使うが反応がない。使えないか。さて、どうしようかな。
ソファーに腰掛け脱出方法を考えると通知が届き確認すると夏樹からだった。
『兄貴、今どこ?! てか、無事なの!?』
『心配かけちゃってごめん。一応、無事だけど……今いるの浮遊城なんだ……』
『待ってて、今助けに行くから……!』
有言実行しそうな勢いの夏樹に釘を刺す。
『こっちは大丈夫だから、夏樹は試合に集中して。』
『試合より兄貴の方が大事! 棄権するから待ってて!』
『夏樹、優勝するんだろう? あんなに言ってたのに諦めるのか?』
『え……で、でも!』
『自力で脱出してみるよ。だから、助けに来なくていいからな。試合頑張って」
夏樹とのやり取りを無理矢理終わらせた。そのあとも夏樹から通知が来るが全て無視する。
さて、夏樹には言ったもののどうしよっかな。メフィストがああいうんだから扉の先は危険なんだろう。窓は開かない。詰んだなこれ。メフィストはまだ帰ってくる様子はないし部屋を探索するか。
引き出しの中や本棚の裏側など見たが特になく、本一冊一冊引いてみるも何も起こらず、怪しそうな首だけの石像も触ってみるが仕掛けはなかった。一通り探索し疲れて僕はソファーに戻る。
「夏樹に言っときながらこのざまか……最悪死に戻りしてファルトリアに戻るのも手だよな……よし、外に出るか。来い、ビャッコ!」
召喚獣の中から僕は防御力を上げられるビャッコを召喚した。何が起きるか分からないし防御力上げとけばなんとかなる……はず。
「よろしくなってどこ行くんだよ?」
召喚したビャッコはテクテクと部屋の奥に歩いて行き一枚の絵画の前で止まり見上げる。そして、勢いをつけ一気にジャンプしたビャッコは吸い込まれたように絵画に入っていく。
「へ?」
急いで絵画に駆け寄り僕が触れても何も起こらなかった。不思議そうに絵画を見ているとガコっと奥の壁が横にスライドし下の階に続く階段が現れた。しばらくしてビャッコも絵画の中から出てくる。心配した僕はビャッコを抱き上げる。
「心配したんだからな」
「ガウ?」
頭を傾け上目遣いで見てくるビャッコの頭を撫でる。
ビャッコを下ろすと階段の方に向かい降りていくのをみて僕は後をついて行く。
下の階まで降りると赤い絨毯が敷かれている道が一つしかなく、警戒しながら進んだ。
「子供?」
少し広いホールに出ると部屋の中央には半透明な球体の中で寝ている子供を見つけた。




