第70話
アテムアさんの試合までまだ時間もあり、飲み物がなくなった僕は立ち上がり売店に向かおうとするとアルナさんを追いかけている夏樹に呼び止められる。
「兄貴どこ行くの?」
「売店だけど、なんかいるものあるなら買うけど?」
「特にないけど俺もついて行くよ!」
「……ブラコン。って痛ーい! なんで殴るのよ!」
「あ、悪い。思わず手が出ちゃったわ」
夏樹とアルナさんのやり取りに僕は苦笑するしかなかった。
「一人で行けるから付いてこなくていいよ」
僕が断ると夏樹はこの世の終わりのような顔になる。
「振られてやーんの」
「……試合の時は覚悟しておけよ?」
「お、いいね! そう来なくちゃ!」
怪我だけはしないでくれよと内心思うのだった。
「アイリスさん、アレイヤさん。なにかいるもありますか?」
「私はバニラのソフトクリームをお願いしてもいいですか?」
「わかりました。アレイヤさんは?」
「私は大丈夫だ」
「わかりました。ヘストもなんかいる?」
「俺もいるのあるんでついて行きます」
「了解。いこっか」
「はい!」
僕とヘストは売店に向かった。
後ろの方で夏樹がなんか叫んでいたけどアルナさんに口を押えられて聞き取れなかった。
しばらく歩くと売店の長蛇の列が見え僕達は並ぶか迷った。
「時間ずらしてまたにします?」
「うーん……まぁここまで来たんだし並ぼうか。最悪抜ければいいし」
「わかりました」
俺とヘストは最後尾に並んだ。しばらく並んでいるとヘストが話しかけてくる
「ウィリアムさんってナツキと仲いいですよね。俺、兄がいるんですけど二人みたいに仲良くなくて。話しかけても「おう」とか「ああ」とかしか返事されなくて……俺、特に嫌われるようなことしてないのに……」
落ち込むヘストの頭に手を置く。
「大丈夫。ヘストのお兄さんは君の事を嫌ったりなんかしてないよ」
「……だと、嬉しいな……すいませんウィリアムさん。変なこと聞いてしまって」
「気にしていないよ」
しばらく並び続けようやくあと数人で売店のレジに辿り着く。後ろを振り返れば僕達が来たよりも更に長蛇の列になっていた。
「おや、勇者ではないか? 奇遇だな! ぶははは!!」
特徴的な仮面に紳士服を着ているダンジョンボスのメフィストと目が合った。
本当にこいつは神出鬼没だなと思い苦笑いをする。
「久しぶりだね、メフィスト。てか、後ろに並んでたんだ……」
「売店の食べ物に目がくらみ勇者の気配を感じ取れなかったとは不覚!!」
大袈裟な振る舞いに周りの視線が集まる。
この時だけでも他人の振りしたい……
「あれ? その仮面どっかで見たような……」
ヘストはメフィストの仮面を凝視する。
「仮面なんて市場とかでも扱っているしそれじゃない?」
「そうですか? うーん……」
ヘストは納得していないようだが。どうすれば。……てか、なんでメフィストを庇ってんだろう……?
「いつまで時間をかけているんだメフィスト。用が済んだらずらかる……なんだこいつら?」
深めにフードを被っている黒いローブの人物が現れ睨んでくる。
この人、メフィストって呼んでいたよな。てことは知り合い? うん、めっちゃ嫌な予感がするんだが。
「我が永遠のライバルだ! もう一人は知らん! ぶははは!!」
メフィストは僕を指さしながら変なことを言い放つ。
「ほう……面白そうだな」
黒いローブの人物は僕の胸倉をつかみ持ち上げる。
「くっ……離、せ……」
「お前も連れていく」
「その案は我も反対だ、ぶははは!!」
「うるせぇ! お前の指図は受けねぇ!」
「ウィリアムさん!」
ヘストは杖を取り出し黒いローブに殴りかかるがびくともしない。
僕をメフィストにぶん投げて回し蹴りでヘストを吹き飛ばす。幸いヘストは杖でガードし直撃にはならなかった。
回し蹴りした際ちらっと素顔が見え僕は目を見開く。
「え……グラシさん?」
「ちっ」
黒いローブの人物の正体は第二試合でアルナさんと戦っていた魔闘士のグラシさんだった。
「ずらかるぞメフィスト」
グラシさんは光に包まれいなくなった。
「やれやれ。すまぬが付き合ってもらうぞ勇者よ。ぶははは!!」
「ちょ、待っ!」
僕を姫様抱っこした状態でメフィストも光に包まれ視界が暗転した。




