第69話
主人公視点です。
「ウィリアムさんお帰りなさい。ナツキ大丈夫でした?」
観客席の自分の席に戻ると心配そうにヘストが尋ねてくる。
「うん、大丈夫。ゆっくり休めとは言ったけど多分、この試合を控室で見ていると思うよ。ほら、試合が始まるよ」
第一試合の影響で会場はボロボロになったがすぐに元の状態に戻った。
今、会場にいるのは第二試合に出るアルナさんと黒髪短髪で犬耳の男性――魔闘士のグラシさんだ。二人はストレッチをしている。
『お待たせしました。これより第二試合を開催します!』
二人はストレッチを止め拳を構えた。
『お二人も準備万端のようですね。では、第二試合開始!』
「「【羅刹衝】!!」」
ミスターFの合図と同時に二人は互いに急接近し拳と拳が交わり合う。
「やるねぇ君!」
「あんたこそな!」
アルナさんは一発一発が重たい拳を。グラシさんは右手を岩にし左手を炎を纏わせた拳でぶつかり合う。戦いは更にエスカレートしていき戦場は地上から何故か空中へ移行した。アニメで見るような空中戦に僕は釘付けだった。
「二人ともすっげぇーー!!」
隣のヘストなんか興奮しっぱなしだ。
長い空中戦をしていたアルナさんとグラシさんは距離を離して地上に降り、肩で息をして互いに見据えている。二人のHPもSPもほとんどない。
「まだ君とは戦いたけど、これで決めるよ」
アルナさんの両手から眩い光が放たれる。
「同感だな!」
グラシさんは両手を空に掲げ頭上に光の球体が浮かぶ。
「【武神の一撃】!」
「【魔将の鉄槌】!」
二人の攻撃はぶつかり激しい爆発と爆風が起こり会場は砂埃で包まれた。
砂埃が晴れるとグラシさんは地面に倒れ、アルナさんは拳を高々と掲げている。
『決着ーーーー! 熱い戦いを制したのは拳闘士アルナ・クラフトスーー!!』
観客席から大喝采が湧き上がる。
アルナさんは倒れているグラシさんに手を差し伸べる。
「またやろうね!」
「ああ、今度は負けないぜ」
グラシさんはアルナさんを手を取り立ち上がり互いに握手を交わした。
二人は大喝采の中、会場を後にし控室に向かった。
「二人の戦い凄かったですね!」
ヘストが興奮気味に聞いてくる。
「だね。特に最後のなんて凄かったね」
「はい!」
「最後の……どう対策しようか悩むな……」
夏樹の声が聞こえ見るといつの間にかヘストの隣に夏樹は座っていた。
「ナツキ!? いつからいたの!?」
「いつから? うーん……空中戦が終わったぐらいかな?」
「声かけてくれよ……びっくりしたんだからな……?」
「わりぃわりぃ。ヘストの様子が興奮している子供のようだったからさ面白くて、声を掛けるのを忘れていた」
「なっ!? 俺はまだ高校生だからいいんですぅ!」
「どういう理屈だよ」
夏樹は苦笑してヘストは口を尖らせる。
すっかり仲が良くなったなこの二人。兄として嬉しいよ。
にしても。
「ヘストは高校生なんだね」
「あ、はい! ナツキの通ってた高校の二年生です」
「へぇー。じゃあ後輩にあたるのか」
ヘストは頬を掻きながら言う。
「一応は。まぁ一度も面識はないんですが」
「たっだいまーー!」
後ろからどんとアルナさん抱き着かれた。
「おかえりなさいアルナ。【武神の一撃】を使うんなんて相手は相当強かったの?」
「うん! 相当強かったし物凄く楽しかった!」
「ふ、アルナらしいな。」
アルナさんは僕に抱き着きながらアイリスさんとアレイヤさんと会話をする。
体格的にもパワー的にも振りほどけないのは知っているから僕はアルナさんが飽きるのを待つことにした。
「あ、こら! 兄貴から離れろ!」
「えぇ~嫌だもんね! べぇーだ! そんなこと言っていいのかな~? ウィルに頭を撫でられていて嬉しそうにしていたのは誰かな? って危なっ!」
夏樹は額の血管を浮かび上がらせ刀を抜いている。その持つ手はフルフルと震えていた。
「そのお喋りな口を今すぐ黙らせてやる……!」
「あんなところでしていたのが悪いと思うけど……って危ないって!」
「うっさい!」
夏樹はアルナさんに斬りかかるがアルナさんは華麗に躱す。
喉が渇いた僕は手に持っていたお茶を飲む。うん、美味い。
「ウィリアムさん、あれ止めなくていいんですか?」
「ん? いつもの事だし大丈夫でしょ」
「そう、なんですか……?」
二人の事は無視してアテムアさんの試合が始まるまで皆と談笑した。




