第61話
大会は夏樹視点になります。
大会当日。街の上空では爆発音の後にカラフルな煙のようなモノが打ちあがっている。
エントリー済みのプレイヤーは時間になったら自動で街にランダムで転移されるようでそれまでは街に入れない。大体のプレイヤーは各々ハウジングで待機している。
参加しないプレイヤーは開始一時間前には街に入れないようになり、街にいるプレイヤーには出るように通知が来るが開始時間になっても街から移動していない場合は強制的にハウジングエリアに転移される仕様になっている。
街に住んでいるNPC達もプレイヤーと間違われて攻撃されないよ前日に街の外に移動させている。そのおかげで今のファルトリアはゴーストタウン化している。
今、俺と兄貴がいるのは《蜜柑の園》のハウジングだ。
開始時刻までハウジングに来ないかとアルナから連絡が来てお邪魔することになった。
アイリスさんが注いでくれたオレンジティーにしたず舌鼓を打ちのんびりしてる。
「ウィルは出なくてよかったの?」
「戦うのそこまで好きじゃないので……それに参加条件も満たしていないので今回パスしました。その分、夏樹の応援に専念しよかと」
「え~、私達の応援はしてくれないの?」
アルナはアテムアさんに首に腕を回す。
今回の大会にはアルナとアテムアさんも参加予定だ。
アルナはただ強い人と戦いという理由で参加。アテムアさんは詳細が明かされていない特別なアイテムを自らの手で手に入れたいという理由だ。
兄貴はちょっと拗ねたように言うアルナの言葉に戸惑っている。
「えっ! あ、えっと……アルナさんとアテムアさんも怪我がないように頑張ってください」
「へへ、頑張る!」
アルナは立ち上がりガッツポーズをする。
「アルナとナツキには悪いが今回は本気を出させてもらうよ」
その言葉を聞いた途端アルナは嫌な顔になる。
「うげっ……マジで? あれを使うのか……アテムアと当たりたくないな……」
アルナが露骨に嫌がるのを初めて見たな。
アテムアさんには色々と装備でお世話になっていて、製作している時の姿しか見たことない。戦っているイメージが思い浮かばない。アルナがこんなに嫌がるんだからアテムアさんの実力は相当なんだろう。
てか、あれって何だろう?気になるけど今は関係ない。全力で挑むだけだ。誰が相手でもな。
「アテムアさん、色々とお世話になっているけど手加減はしないでください、全力でお願いします」
「ふん。やる気だけは一丁前だな。だが、嫌いではない」
「二人ともやる気に満ち満ちてるよー。ウィル~勝てる気がしないんだけど~」
アルナは兄貴に抱きついて口を尖らせている。
そんなアルナを兄貴から引き剥がす。
「兄貴に抱き着かない!」
「えぇ~! いいじゃん! 減るもんじゃないしいいじゃん!」
「うっさい! 俺だって、兄貴に……!」
俺が言いたかった事を言おうとした時エレベーターが開く音が聞こえアレイヤさんが降りてくる。
そのまま兄貴の前を通り過ぎ……るついでに兄貴の頭を撫でアイリスさんの隣に座る。
兄貴は頭を押さえながら照れている。俺だって……ああ、もう! この鬱憤を大会で晴らそう。うんそうしよう。
開始時間が訪れたのか俺とアルナ、アテムアさんが足元に魔法陣が現れた。
「そろそろ時間だな。三人とも健闘を祈るぞ」
「皆さん怪我がをしないように頑張ってください」
「ほーい。頑張ってくる!」
アルナは元気に返し、アテムアさんは頷いた。
「兄貴、行ってくる」
「気を付けて」
魔法陣が光りだし視界が暗転すると街にいた。急いでマップを確認すると街の東側の端だった。
周りを見渡すと、至る所にカメラが設置されている。
あのカメラで大会を中継するんだっけな?
そんなことを思っていると上空から声が響き渡り俺は見上げた。
『お集まりの皆様! これより第一回公式対人戦大会を開催いたします! 司会はファルトリア担当GMのミスターFと!』
『同じくファルトリア担当GMのミスターNだ』
『ファルトリアはこの二人で司会していきます! よろしく!』
『ふじ……ごほん。ミスターF、ルールの確認を』
『今こいつ名前を言いやがった……事前に気を付けろっていったのに。はぁ……これだから……』
なんだこの茶番……早く始めて欲しいんだけど。
大体のプレイヤーはそう感じているに違いない。
『まぁいいや。では、ルールの確認します! ルールは簡単、他のプレイヤーを倒すだけ! 負ければその場で終了になります。そして倒した数が多い上位八人が明日のトーナメント戦に出場できます!』
一拍置いてからミスターFが続ける。
『なお、普段は建物は壊れないようシステムで設定していますが、今回はありません! 壊しても大会が終われば修復されるので存分に壊しちゃっても大丈夫! 責任はミスターNが全て持ちますので全力を出し切っちゃって!』
『ふざけたことを言ってないでルールの確認が終わったならさっさと開催の合図をミスターF』
『はいはい。では、サバイバル戦開始します!』
ゴーンと開始の合図が鳴り響く。
両頬を叩いて気合いを入れ直し俺は走り出した。




