第60話
平日ログインしないまま金曜の夜。同僚に飲みに誘われたためにいつもより帰りが遅くなってしまった。
部屋に戻った僕は上着をそこら辺に放り投げベットに倒れこんだ。
「疲れた……大会明日だっけ? 日曜だっけ? あれ?」
いつやるのか忘れた僕は体を起こし調べるためにパソコンの前に移動する。
公式サイトを開きマイページに飛び、そこに映る自キャラの姿が違うことに僕は思い出した。
そう言えば容姿がバグって運営に報告したんだっけ? 今の見た目に慣れたのもあるけど愛着もあるから今更戻してもな……とりあえずメールが来てないか確認するかな。
……お、やっぱり来てたか。なになに……原因は不明で、原因究明中。それに容姿を変更できる課金アイテムが添付されいるな。
期限はないみたいだし今は使わなくていいかな。
僕はそっとメールを閉じ大会の詳細を探した。
大会は各拠点になる街で同時開催され土日で行うようだ。
土曜に街全体を使ってのサバイバル戦が行われる。そこで倒した数が多いプレイヤー上位八人が日曜に行われるトーナメント戦に出れるようだ。
参加条件はレベルカンスト。それと最初に選んだ拠点の街でしかエントリーが出来ないようだ。
エントリーは今日の零時前まで。夏樹はエントリー終わっているのかな?
気になった僕は椅子から立ち上がり廊下に出ると夏樹と遭遇した。
「夏樹、今帰り?」
「おう。兄貴がワイシャツ姿ってことは今帰りなの? 残業?」
「飲みに誘われたな。まぁそれいいとして、エントリーは終わってるのか?」
「おう! それにジョブクエも終わらせた」
「おめでとう。なんのジョブ……って見習いが取れただけだっけ?」
「あー……普通はそうなんだけど、兄貴今からインする?」
「少しだけするけど」
「じゃあギルドで待ち合わせで」
「わかった」
部屋に戻りヘッドギアを付け僕はログインする。
噴水広場からギルドに向かうと入り口の付近で壁に寄り掛かっているのを見つけた。
「夏樹、お待たせ。なんか装備変わった?」
久しぶりに見た夏樹の装備をみて微妙に変わっていることに気が付いた。
「金色のラインを白色にしただけなんだけど、兄貴よく見てるよな~」
「たまたまだよ。アテムアさんに頼んだの?」
「おう。性能は格段に上がったけど、前の見た目が気に入っていたから無理言って作ってもらったんだ」
「……ちゃんとお金払ったんだよな?」
「な、なんで怒ってんだよ? 勿論払ったよ! 高めに払いました!」
夏樹は必死になって弁明する。
ちゃんと筋を通しているないいけど。
「ふーん。ならいいけど。それよりも訓練場に行くんだろ? 早く行こう」
「お、おう」
ギルドに入った僕達は列に並び、受付を済ましてから訓練場に向かう。
訓練場に入り夏樹は刀を鞘から抜いて見せる。
見た目は変わらないけど刀身の中央部分に赤、青、緑、黄色の玉が埋め込まれていた。
「前のジョブは刀士見習いだったんだけど」
「侍じゃなかったんだ……」
そう言えば夏樹の口から聞いてなかったことを思い出す。
「刀士だよ。侍は刀士の次のジョブ。で、話戻すけど普通なら見習い取れるだけなんだけど」
夏樹は刀を鞘に納め構える。すると、夏樹の装備のラインが緑色に変わる。
「【飛燕・風】!!」
飛ばされた斬撃は木人に着弾すると木人に複数の細かい切り傷がつく。
夏樹は刀を再度納めこちらに振り返る。
「ジョブクエクリアしたら属性刀士になってんだ。兄貴の付与魔法がなくても刀に火、水、風、土属性を付与させる事が出来て。その影響でスキルも変化するようになったんだ。どうしてこうなったのか分からないけど、これなら勝てると思って必死に熟練度もこの一週間すっげぇ頑張って上げたぜ!」
夏樹が大会に掛ける思いは凄いな、応援したくなるな。するけども!
「夏樹、頑張れよ」
「おう! あのさ、兄貴。もし優勝したら我が儘一つ言ってもいい?」
「え、出来る範囲なら、いいけど……ちなみに何?」
「それは……その時言うよ! 兄貴から言質取れたし頑張るぜ!」
夏樹は拳を掲げ高らか言った。
何言われるか不安は残るけど、夏樹には優勝して欲しいと僕は内心で祈った。




