第6話
僕の掛け声でビャッコはオーガに駆け出した。
オーガはビャッコ目掛けて棍棒を振り回したり、足で踏みつぶそうとするがすばしっこく小さい、更に敏捷力も上がったビャッコは巧みに躱す。
なかなか攻撃が当たらずオーガはだんだんとイライラしているようだ。攻撃が単調になってきた。
「ストーンウォール!」
そんなオーガの足元に段差程度の土壁を作り体勢を崩させる。咄嗟の出来事にオーガは対応できずに体勢を崩した。その隙をビャッコは見逃さずオーガに一撃を入れる。だが、ほとんどダメージが入っていない。やはりレベル差はキツイか……。
召喚獣は召喚士のレベルに依存する。いくら最強枠のゴッドクラスでもレベル10とレベル50の差は大きいってことだな。
……このままでは持久戦になってはしまう。そうなればこちらが圧倒的不利だ。どうにかしないと。
ビャッコは土壁を作りつつオーガと距離を離し僕のもとに戻ってきた。
「ビャッコ、まだ行けるか?」
「ガウガウ!」
ビャッコのステータスを確認するとHPもMPも減っていない。まだやる気満々だ。
その時、オーガが雄叫びを上げながら突進してくる。ビャッコもそれに合わせて駆け出した。
僕も魔法を唱えサポートする。
「ストーンバレット!」
数え切れない野球玉サイズの石の礫を放つ。ビャッコは石の礫に紛れて近づく。
オーガは飛来してくる石の礫を棍棒で大きく振ってかき消した。
ビャッコはその間にオーガの後ろに回り込み飛びかかる姿勢に入るがオーガの目線はビャッコを見ていた。させない!
「ストーンウォール!」
オーガとビャッコの間に五メートル程の土壁を作りオーガの視界からビャッコを隠す。そのせいで僕のMPは半分を切ってしまった。だが、そのおかげでオーガはビャッコを見失った。
そして、その隙にまたビャッコが一撃を与える。よっし!
「っげ! こっち見てる……!」
連携が上手くいったと思っていたら充血している瞳のオーガの視線が僕を捉えていた。
オーガはビャッコを無視して僕に向かって走ってくる。MPも半分尽きた、オーガの一撃をくらえば僕のHPは全損してしまう!
近づけさせないために土壁を作り阻むが、その壁を突進しながら壊していく。
「やばいやばい! 逃げな――」
「ガウッ!」
直ぐ近くまで来たオーガに背を向けて逃げ出そうとしたとき僕のもとに戻ってきたビャッコは土壁を作る。だが、オーガは腕を大きく振って棍棒で壊し、それごと僕とビャッコを吹き飛ばす。
吹き飛ぶビャッコを僕は腕に抱き寄せた。激しい音を立てながら何度も地面に叩きつけられ、木に当たったことでようやく止まった。
――痛い……痛みで、身体が動かない……痛みまでリアルなのか、このゲームは……
ステータスを見るとHPはレッドゾーンに突入していた。ビャッコが庇ってくれたおかげでどうにか全損しなずに済んだ。ビャッコのHPは半分以下までに。
腕の中で気を失っているビャッコをみて自然と抱きしめる力が強くなった。
遠くにいるオーガは勝利を確信した笑みを浮かべながら歩いてくる。
「ストーン、ウォール……」
気力を振り絞り残りのMPを使い自分を土壁で包みこむ。あれほどの轟音だ。きっと誰かが助けに来てくれる。それまで持ってくれればいい。
オーガが近くまで来たのか土壁を棍棒で殴りパラパラと土が落ちてくる。その時、ビャッコの耳が動いた。そして閉じていた瞼が開き僕と目線が合う。僕は安堵した。
「ガウ……」
「ビャッコ……ごめん……そして、ありがとな」
腕の中にいるビャッコに謝罪と庇ってくれたお礼を伝えるとビャッコはペロペロと頬を舐める。
「ビャッコ……流石に無理だよ。逃げよう?」
「ガウ!」
「いたっ!」
ビャッコに逃げる提案すると首を横に振り鼻先を噛みついてきた。おかげでHPが残り1パーセントに。
危ないな。
「ガウガウ!」
ビャッコは腕の中を抜け出し壁の向こうのいるとオーガに対して威嚇にし始める。
「ビャッコ……」
そんな後ろ姿を見ていると目の前にウインドウ画面が出てきた。
【一時覚醒の条件が達成されました】と。
一時覚醒を行うとビャッコが本来の姿に一定時間戻れる。ただし、その間に倒した敵モンスターからは経験値が入らない。
詳細を読み終わりどうしようかとビャッコをちらっと見ると無言で頷いた。
僕は決めた。
「ビャッコ、やっちゃえ」
僕はウインドウ画面の【YES】を選択した。
「ガオオオォォォォォオオオオ!!」
ビャッコは雄叫びと共に光りだし、光は天高くまで伸びる。
風圧で土壁は壊れ、オーガも吹き飛ぶ。光が収まりるとそこには四、五メートルほどまでに成長したビャッコがいた。
ビャッコは僕をちらりみると駆け出し、一瞬でオーガの元まで行くと鋭い爪でオーガは切り裂かれHPは全損し、ドロップアイテムを残し消滅した。