第55話
温泉を充分に満喫した僕達は湯舟から上がろうとした時、足音が聞こえ顔を向けるとそこにはタオルを巻かず裸体を晒している女王がいた。
僕は急いで顔を逸らし背中を向ける。
「なんで裸なんですか女王!? それよりも、なんでここにいるんですか!?」
『ん? 裸ではないぞ? ちゃんと服は着ているぞ?』
「え?」
僕はゆっくり振り向き目を凝らしてみると肌色のアンダーパンツとシャツを着ていた。
変な勘違いをしてしまい恥ずかしくなった僕は顔を背ける。
「兄貴、顔真っ赤」
「指摘しなくていいから! てか、どうせ夏樹も……あれ?」
夏樹はいつも通りの顔をしていた。
「アンダー系って水着みたいなもんだしな~。流石に赤くはなんないよ。兄貴のスケベ~」
「なっ! ち、違うから!」
「ふーん……」
夏樹がジト目で見てくる。僕は咳払いをし話を逸らすために女王に尋ねる。
「それよりもなんでここに女王がいるんですか?」
『我の私有地なのだからどこで何をしていようがお主らには関係ない話ではないか?』
「それを言われたらなんも言えないんですが……僕達は出るのでごゆっくり……」
女王の横を通り過ぎようとした時、女王に肩を掴まれた。
『まだ時間はあるのだろう? 語ろうではないか?』
「は、はい……」
「じゃあ俺は先に……」
女王は夏樹の肩をガシッと掴む。
『お主もだ』
「はい……」
僕と夏樹は諦めてまた温泉に浸かった。
温泉に飽きた召喚獣達は僕の周りに集まってくる。ゲンブは頭の上に、スザクは右肩へ。セイリュウは左腕に巻き付いてくる。ビャッコはどこに行けばいいのか分からなくあたふたする。
僕は足だけを温泉に浸け、ビャッコを膝の上に乗せる。
『うーんっ。いい湯だ!』
女王は伸びをする。服を着ていても目のやり場に困り、僕は膝の上にいるビャッコに視線を落とすと、ビャッコと目が合う。僕はビャッコの体を撫でる。
『我の自慢の温泉はどうだ? 最高に良かろう?』
「はい、最高でした」
「です!」
『そうかそうか!』
そう言うと女王は嬉しそうに鼻歌をする。
そんな女王をみて僕は夏樹に尋ねた。
「夏樹、女王って何者なんだ?」
「それ今更聞くの? てっきり知っているんだとう思っていたけど……女王は」
『我は《妖精の花園》の統べるダンジョンボスだ』
僕達の話を聞いていた女王が夏樹の代わり答えてくれた。
「えーー! そうだったの!? ……ですか!?」
驚いた僕は思わず素で話してしまい、急いで訂正した。
『そうだ』
女王は腕を組みドヤ顔で肯定する。
「補足で言うと、妖精の実を捧げた時に現れた時とここで敵対関係になった時だけダンジョンボスになるんだ。その時の表記がダンジョンボス ティターニアでしたっけ?」
『ああ、そうだ。よく知っておるなお主』
「情報は力になるんで事前に調べているんですよ」
で、と夏樹は続ける。
「ここで女王と敵対関係にならず、妖精の実を捧げず出会えた場合のみ表記が変わって妖精の花園を統べる女王ティターニアになるんだよ。兄貴と対峙している時は前者だったけど、今は後者だよ」
「そうなんだ」
「ちなみに、ダンジョンボスとしての場合だと四人以上推奨のダンジョンボスなんだけど、兄貴はそれに単騎で挑んでいたんだよ。本当にひやひやしたんだからな」
そんな無茶なこと言っていたんだと僕は思った。
『あのまま続けていたら我の勝ちは決まっていたのに、まさか超広域殲滅魔法のメテオを使われるとは予想外だったぞ』
「超広域殲滅魔法……なんか字面やばいね兄貴」
「そ、そうだね……」
その後も他愛のない話をしようやく満足した女王と僕達は温泉を出て廊下を進んでいる。
僕は時間を見ると夜の八時を過ぎていた。
「もう八時か……」
「えっ! もうそんなに経ってたの! 全然レベル上げしていないよ……」
夏樹は肩を落とす。
『そんなことを言っていたな。ここでは妖精の依頼をクリアした時にしか経験値は貰えないようにはなっておるが大会に間に合わせないといけないのだったな。だが、今は妖精たちは寝ている故に依頼は受けれないぞ?』
「そ、そんな……」
夏樹は更に落ち込んだ。
『ふむ……我に考えがある。ついてまいれ!』
そう言い女王は急に方向を変え来た道を戻っていく。
僕達は女王の後を急いで追った。




