第50話
僕と夏樹は警戒しながら進むと遠くにイビルアイヴィが見えると道を引き返した。
イビルアイヴィが見えなくなり一安心すると夏樹がつぶやく。
「低確率のはずなのに今日だけで三体も見かけるなんて……兄貴がいるから?」
夏樹はこっちをじっと見つめてくる。
「か、関係ないと思うけど……」
「兄貴がいない間、友人とパーティー組んでやっていたけど、一度も特殊ボスに当たらなかったし、レアな敵モンスターも湧かなかった。それにダンジョン潜っていてもランダムイベントは起こらなかった。友人に聞いても一度もないって言ってたんだ」
なのに、と夏樹は続ける。
「兄貴と行くと特別なことは起きるし、確率可笑しくなるしで、面白い体験できるからいいけどね!」
「そうですか……」
僕はため息を吐き話題を変える。
「……早く中ボスの部屋行こう夏樹」
「え、このダンジョンに中ボスはいないよ?」
「えっ……いないの?」
衝撃の事実に僕は驚いた。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないし、聞いてない。他のダンジョンとは違うの?」
夏樹は説明してくれた。
このダンジョンは一階層しかなくとても広い。ダンジョン内の何処かにある妖精の実を見つけ、中央に設置されている祭壇に妖精の実を捧げるとダンジョンボスが現れるそうだ。
妖精の実は毎回生成される場所が変わる為見つけにくい。その為、ダンジョンボスは数回しか倒されたことが無いらしい。
「まぁダンジョンボス倒せれば経験値は沢山手に入るけど、周りの敵モンスターを倒すだけでもいいから、妖精の実は見つかったらでいいかなって」
「了解。そんじゃレベル上げ――」
「兄貴、隠れて」
夏樹に腕を引っ張られ岩の影に隠れる。文句を言おうとしたら口を塞がれた。
するとまた不快な足音を立てながらイビルアイヴィの足音が近くで聞こえる。
息を殺し気配消して通り過ぎるのを待った。
イビルアイヴィは僕達に気づくことなく去っていく。
それよりも、空気が……
「四体目もしくは、さっきの見た個体か……どっちにしても戦うと他の敵モンスターを呼ぶから面倒だし、って兄貴ごめん!!」
僕の顔が青白くなっていくのに気づいた夏樹は慌てて手を離した。僕は大きく呼吸をした。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
「ほんとごめん!」
「……もう大丈夫だから。それよりも一旦離れる?」
「うん、とりあえずあいつが行った道と逆の方に行こう兄貴」
「はいよ」
僕達は急いでその場を離れた。
逆の方にしばらく歩くと開けた場所でそこには大きな湖があった。
湖の周囲には霧が発生していた。
「やっば……ここに出るのか……」
夏樹の言葉から察するにこの湖は危険な場所なのかな?
僕は尋ねた。
「ここってなんかあるの?」
「兄貴、ここのダンジョンの名前覚えてる?」
「え、《妖精の花園》?」
「そう。で、ここが――」
その時、突然風が吹き霧が晴れると湖の中心に青い結晶のようなモノで作られた城が現れる。
「このダンジョンの名前の由来にもなっている妖精の花園だよ。湖の真ん中にあるのが妖精の女王が住んでいる城になるんだけど」
夏樹は頭を掻いてから続きを言う。
「ダンジョンは広いし早々無いだろうって思っていたからここからの出かたを調べてないんだよな」
「え、そうなの? 来た道を……あれ、道がない?」
振り返ると道は無くなり、そこには見上げても頂上が見えない岩壁がそびえ立っている。
「転移結晶のアイテムを使えば……」
「一日経たないと使えないように設定されているよ。折角レベル上げしに来たのに、ここじゃあなー……」
夏樹は肩を落とす。
「ここは敵モンスターが湧かないの。一応経験値は貰えるは貰えるんだけど……妖精達の依頼を達成しないと貰えないんだ……しかも毎回違うみたいで難易度もバラバラなんだよ」
「へぇーそうなんだ。まだまだ大会までは時間あるし、今日は休憩ってことでこの世界を楽しまない? 偶然だけど来れたんだし」
「兄貴ポジティブ過ぎ。……まぁ兄貴の言う通りだし、行こう兄貴!」
「おう」
僕達は妖精の花園に足を踏み入れた。




