第47話
「久しぶりだね、ウィル君! それと……誰?」
獅子に跨りながら尋ねるレオルさんに僕は答える。
「僕の弟のナツキです。ギルドで一度だけみていると思うんですが……」
「ギルドで? みたかな…………あ! ウィル君の事を誰が勧誘しようと大会を開こうとしたときに颯爽と現れ連れ去った人か! リアルの弟さん?」
僕が答えようと喋る前に夏樹が前に出る。
「弟の! ナツキです! よろしくお願いします!」
「おおー、すっごいやる気だね! 俺はレオルだ! よろしく弟君!」
なんかお互い笑顔なんだけどなんか怖い……
それよりもレオルさんの後ろで控えている獅子がこっちじーっと見ているんだが……
「あのレオルさん、後ろにいるその子は?」
「ん? あ! 忘れてた! ウィル君を探していたのはこいつを見せたかったんだ!」
獅子は立ち上がりレオルさんの隣に移動しレオルさんは言う。
「この子はウガルルムって言う敵モンスターからドロップして手に入れた俺の従魔だよ! 名前はソル! クラスはキング! 俺の自慢の相棒だ!」
従魔にもクラスが存在していてほぼ召喚獣と似ているが、従魔にはゴッドクラスは無く、最高のクラスがキングクラスだ。
低確率でしかドロップしないエッグを手に入れるとは凄いな。それにレベルがカンストしている。
従魔のレベルは召喚獣と違ってプレイヤーに依存しない。この子がレベル高いってことはどれだけレベル上げしたんだか。
僕は気になることを尋ねる。
「従魔士にジョブチェンジしたんですか?」
「ただの従魔士じゃないんだな、これが! 聞いて驚け! 俺の今のジョブは獅槍騎士だ!」
「「獅槍騎士?」」
初めて聞くジョブに僕と夏樹は声が重なった。
レオルさんが言うには前のジョブが槍騎士の時に従魔士へジョブチェンジした際に新たなジョブになったそうだ。しかも、未発見のジョブらしい。
「ウィル君のビャッコに触発されてね。エッグが出るまで苦労したけど、今では最高の相棒さ。これで来週の大会は優勝が狙えるよ。ソルと出会うきっかけをくれたお礼に、優勝したらとっておきのプレゼントするよ!」
「僕は何もしてないので、遠慮します……」
「楽しみにしててね!」
断っているのにレオルさんの耳には届いていない。
どうしようかなと悩んでいると夏樹が僕とレオルさんの間に入った。
「あの! 優勝するの俺なんで! 果たせない約束をしないでくれませんか?」
「はぁ?」
夏樹の言葉にレオルさんは普段よりもかなり低い声で答えた。
僕は慌てて間に入る。
「夏樹、どうしたんだ?」
「ふん!」
夏樹は背中を向け歩き出す。
「どうしたんだよ夏樹……」
「なんだあのガキ……舐め腐っているだろ! 優勝するのは俺だっつーの! あいつと兄弟なんて大変だねウィル君は。じゃ俺は帰るわ」
レオルさんはソルに跨り来た道を戻ろうとする。
そんなレオルさんに僕は言う。
「レオルさん、僕は一度も大変だって思った事は無いです。それに夏樹は僕の自慢の弟です。優勝するかもしれませんよ? それとプレゼントの件は丁重にお断りします」
僕はレオルさんに頭を下げた後、夏樹の後を追う。
夏樹に追い付いたがなんて声を掛ければいいのかわからずしばらく僕と夏樹は無言で街中を歩いた。
「兄貴、宿屋行こう」
「う、うん」
そう言われ宿屋に足を向け、また無言が続く。
宿屋に着き部屋を借り中に入ると夏樹はベットにうつ伏せで倒れ込む。僕はベットの端に座る。
「兄貴ごめん……あの人と人間関係悪くさせちゃって……」
震えた声で言う夏樹に僕は答える。
「そんなの夏樹が気にしなくていいのに。それにレオルさんとはそんなに仲が良い訳でもないからな?」
そう言うと夏樹は体を起こし僕の背中に頭を押し付けた。
「なんであんな事言ったのか訳を聞いてもいい?」
「……やだ。言わない」
これは絶対に言う気はないな。
僕はため息を吐く。
「じゃ聞かないからさ。さっきの優勝するって本気なの?」
「……無茶苦茶なことを言ってるのは分かってる。それでも優勝したい」
「そっか。じゃあまずはレベル上げだな。この前バイトあったのに付き合ってくれたし今度は僕が付き合うよ」
「兄貴……!」
「まぁその前にちゃんと寝てからだからな」
「わ、わかったよ」
「よし、レオルさんを倒して優勝しよう計画(仮)頑張るぞー」
「兄貴、それは流石にダサいよ」
ようやくいつもの夏樹の顔に戻って僕は安堵した。




