第44話
仕事が忙しく平日は碌にログインが出来なかった。そして、ようやく連勤も終わり明日から土日。ということはやっと休みになるのだ。
帰宅した僕は食事も早々に終わらせログインした。
僕がログイン出来ない間夏樹は友人達とレベル上げを行い、いつの間にか僕のレベルを越してレベル40まで成長していた。まぁそんな夏樹だが大学の用事で今夜はいない。
久々の一人だ。夏樹に心配かけないように僕もレベル上げ頑張るかな。
さて、夜にログインしたのはいいが次のダンジョン移動するなら夜通しになってしまう。
夏樹からはそれはしないでと念押しされているから移動はなし。
なら、ハウジングエリア行っていつか買うハウジングの下見でもしようかな。お金ならあるし、良い場所があったら購入もありだな。そうとなれば早速行こう!
僕は転移結晶のアイテムを使いファルトリアのハウジングエリアに転移する。
「さて、良い所あるかなぁ~」
ハウジングエリアに移動した僕は石畳の道を歩いて行く。
このまま北の方に進めば《蜜柑の園》のハウジングがある場所に行き着く。ちょっと挨拶にでも行こっと。
しばらく歩くと《蜜柑の園》のハウジング前に着く。誰かいるかなとフレンドリストを見ていると後ろから声を掛けられた。
「ウィリアムさんお久しぶりです。ナツキさんから忙しくってログインが出来ないと聞いていたんですが落ち着いたんですか?」
「アイリスさん、お久しぶりです。まだ忙しいです……しばらくは平日はログイン出来ないので、土日でガッツリやろうかなと」
「そうなんですね。体調には気を付けてくださいね」
「ご心配頂きありがとうございます。あ、そうだ。アイリスさん。まだ蜜柑の在庫ってありますか? 召喚獣達が気に入って、アテムアさんから貰った分がほとんどなくなっちゃってあったら買いたいんですが」
「確認してきますね。あ、中で座って待ってください」
「お邪魔します」
アイリスさんの後に続き入っていく。アイリスさんはエレベーターに乗り三階へ行き、僕は近くのソファで待つことにした。
「あれ? ウィルがいる! どうしたの?」
二階から階段を使いアルナさんが降りてくるなり、僕を見つけて駆け寄ってきた。
「アルナさん、お久しぶりです。近くを通ったので挨拶と蜜柑の在庫が無くなりそうだったのでハウジングの前で会ったアイリスさんに在庫確認してもらっている所です」
「そうなんだ!」
アルナさんはそう言いながら僕の隣座る。
「ねぇねぇ、スザクとビャッコ出せる? 撫でてみたい!」
「いいですけど、やさ――」
「優しくでしょ? わかってるよ!」
最初にアルナさんと出会ったことを僕は思い出した。スザクに触りたいって言ってきた時も僕はアルナさんにそう言ったな。
「わかりました。来い、スザク! ビャッコ!」
召喚されたスザクとビャッコはそれぞれの定位置に移動する。
「この子がビャッコ? 可愛いね! 初めまして、私はアルナ! よろしくね」
「ガウ!」
アルナさんは中腰になりビャッコの頭を撫でながら自己紹介した。
その時、エレベーターが一階に着く音が聞こえ、アイリスさんが戻ってきた。
「ウィリアムさんお待たせしま――――」
アイリスさんは手に持っていた箱を落としプルプルと震えだす。
「か、か、か、可愛いいいいぃいい!」
アイリスさんは目を輝かせビャッコに猛ダッシュで駆け寄っていく。
アルナさんは半暴走状態のアイリスさんの前に立ち塞ぎ近づけさせないようにしている。
「アイリス、目を覚まして! ビャッコが怯えているから! それにそんな状態をウィルに見せちゃっていいの!?」
「はっ……!」
アルナさんの必死な呼びかけに意思を取り戻したアイリスさんは少しずつ後退り、そして。
「ご、ごめんなさーーーーーーい!」
アイリスさんは絶叫しながら階段をすごい勢いで駆け上っていく。意外な姿をみて僕は呆気に取られていた。
「ウィル。さっきの事は忘れてね?」
「あ、はい……」
アルナさんは床に転がっている箱を持ち上げ中身を確認した。
「中身は無事みたいだ。どれくらいいるの?」
アルナさんに欲しい分だけ言い、金額を払い受け取った。
そして、アルナさんはビャッコを抱き上げソファに座り膝に乗せる。スザクはアルナさんの頭の上に止まる。アルナさんは満足そうな顔をする。
「ウィル、この後とか予定ある?」
「この後ですか? ……あ、ハウジング買おうと思って下見に来てたの忘れてた」
「忘れてたって。普通忘れないよ? ウィル面白い~アハハ。じゃその続き?」
「そうですが……何も笑わなくても……」
「ごめんごめん。あ、じゃ私が案内するよ! ついでにアイリスも暇だし呼んでくるよ」
そう言いアルナさんは立ち上がりエレベーターで三階に行く。
さっきのあれだしアイリスさんは来ないんじゃないのかなと思いながら僕はスザクとビャッコと一緒に待つことにした。




