第35話
これから向かう《亡者の墓場》は蜘蛛系やゴースト系、アンデッド系の敵モンスターが主に湧くダンジョンだ。
火や聖属性の魔法やスキルで対策すれば特に苦戦することないダンジョンで、全部で三階層と夏樹から聞いた。だから今回の攻略はスザクに決めた。
まぁそれは置いといて、今現在夜道をランタンで進んでいるんだが……所々に墓石が点在していて、聞こえてくる音は僕と夏樹の足音と木々が揺らぐ音のみ。幽霊が出てきそうな不気味な雰囲気がする。僕は周囲を警戒しながら進んだ。
「兄貴、大丈夫?」
「へ? な、なに?」
「だから、大丈夫かって聞いてんの。兄貴、ホラー系苦手でしょ? 朝に出直す?」
「……ホラー系が苦手なのなんで知ってんだよ?」
「そりゃ、兄貴を見てればわかるよ!」
バレないようにしていたんだけど分かりやすかったのか?
溜息をついてから僕は白状した。
「そうだよ、苦手だよ。ゲームだから行けると思ったけどちょっとキツイかも……」
一拍置いてから僕は続ける。
「でも、僕から言い出したことだし頑張るよ」
「了解。あ、じゃあさ手を繋いでいこうぜ!」
夏樹は僕の手を掴み歩き出す。
「夏樹、流石に恥ずかしいんだけど……」
「えぇ、いいじゃん! 小さい時みたいで! まぁあん時逆だったけど」
大学一年の弟に手を引かれる社会人って……はぁ……
昔は僕の後ろをよく付いてきてたのに、今ではすっかり頼もしくなって。兄としては嬉しい限りだけど。言動がちょっとおかしい時は省いて。
僕は何も言わず手を繋いだ状態でダンジョンの入り口まで行く。
「あのさ、ダンジョンの入り口が墓所って……普通に嫌なんだけど……」
「兄貴に朗報、中はじめっとしていて、薄暗いよ」
夏樹の言葉に僕はげんなりする。
「それ、朗報じゃないから! 悲報だから!」
「まぁまぁ。なんかあったら俺とスザクが守るし大丈夫だって。なぁスザク?」
「チュン!」
スザクは翼を広げてアピールする。
《亡者の墓場》に来てから散々だな僕は……
僕は頬を叩き気合を入れる。
「心配してくれてありがとな二人とも。もう大丈夫だから行こう」
「おう!」
「チュン!」
先頭を夏樹にしダンジョンに入っていく。
明かりはほとんどなくランタンの明かりを頼りにゆっくりと石階段を降りていく。
前を警戒している夏樹が話しかけてくる。
「兄貴、レベル25で新しい魔法覚えたんだよな。どんな魔法?」
「覚えたのはパーティーメンバーにしか使えない四属性の付与魔法だよ。夏樹、刀抜いてみて」
「? うん」
僕は夏樹の刀に火属性の付与魔法を唱えると銀色の刀身から黒い炎のエフェクトが出る。
「おお、なんかカッコイイんだけど!」
少し興奮している夏樹に僕は続ける。
「付与時間は五分で、その間は武器に火属性の効果が付く魔法なんだ。武器をしまう行為すると強制終了して、MPを半分も消費するから燃費が悪いけど、強い魔法だよ」
「武器をしまうと……納刀すると切れるってこと?」
「試してみれば?」
夏樹は刀を鞘に納めると黒い炎のエフェクトは消えた。
「うーん、見た目はいいんだけどなぁ。俺のスキルと相性悪い……」
夏樹のスキルはほとんどが納刀状態から使用するもの確かに相性が悪い。
「まぁいいや。ここはまだ敵湧かないし、MPポーション勿体無いからMPが回復するまで休憩!」
そう言って夏樹は石階段に座る。
僕も石階段に座りMPが回復するのを見ていると夏樹はボソッと呟いた。
「ここのダンジョンってホラー好きな運営の一人が作ったらしいんだよね。だから、夜中にここのダンジョンを攻略する人いないんだよね~」
「それをログインする前に言って欲しかったんですけど!?」
夏樹に対してのツッコミが狭い通路に響き渡った。




