第34話
御者のウラヌさんは盗賊との距離をかなり離して馬車を止める。
ウラヌさんは盗賊から視線を外さずに話しかけてくる。
「坊主どもより数が多いが……行けるか?」
僕と夏樹は頷く。
「兄貴、ここは俺に!」
「だーめ。流石に人数が多いって」
「えぇぇ! いいじゃん! 範囲でぶっぱなして倒すからいいでしょう?」
脳筋的な考えで僕は少し呆れる。
「それ言ったら僕の範囲の方が威力高いけど、セイリュウ出してるし」
「うぅ、それは、そうなんだけど……馬車はどうすんだよ? 俺じゃ守り切れないし、俺が盗賊をやった方がいいって!」
「いや、だから、人数が多いって言ってるの! 一緒にやろ?」
「それだと馬車が無防備になるじゃん!」
「俺たちを無視してうっせいぞお前らああああ!」
夏樹との口論ですっかり忘れていた盗賊たちの怒声が飛んでくる。
「「お前たちのせいだいだろうが!!」」
その言葉に逆ギレした僕と夏樹は同時に範囲スキルと風属性の範囲魔法を使う。
僕の範囲魔法で吹き飛びながら切られている盗賊に、夏樹の斬撃が追撃して何十人もいた盗賊はあっという間に倒される。ついでに木の上に潜んでいた者たちも強風に耐えられず地面に落ち倒された。
「やったぜ! 兄貴!」
「おう」
僕と夏樹はハイタッチを交わす。
他にいないか確認したが敵はいなかった。僕と夏樹は盗賊達をウラヌさんから渡された縄を使い縛り上げる。
僕は夏樹に気になることを尋ねる。
「こいつらを縛り上げたあとどうするんだ?」
「村にある警備隊に差し出すと報酬が貰えるんだよ。だから村まで連れていく」
「わかった」
盗賊達を縛り上げ一か所に集めてから昼飯にした。
昼飯が終わると村に向かって馬車は走り出す。その後ろから盗賊達はぞろぞろとついてくる。
僕は盗賊達の監視も含めて後方で警戒することにした。
「兄ちゃんかっこよかった!」
「うん!」
「そ、そうか? サンキューな二人とも」
ウラヌさんの隣に居る夏樹に幼い兄弟がキラキラした目で言われ夏樹が照れている。
「あの、お兄さん……」
するとセイリュウと遊んでいた女の子が声を掛けてくるなり正面から抱き着かれた。
「ばしゃをまもってくれてありがと!」
「どういたしまして」
そう言いながら女の子の頭を撫でる。
馬車はどんどんと進み、盗賊の襲撃?みたいなことはそれ以降なく無事に目的のダンジョン近くにある村に到着した。日はもう完全に沈み夜になってしまった。やはり一日経ってしまったか。
村に着き、盗賊達を引き連れて警備隊に受け渡し報酬を受け取る。報酬はお金と経験値だった。
お金だけだと思っていたから僕は驚いた。でも、そのおかげで僕はレベル25、夏樹は22まで上がった。
警備隊を後にし御者台で待っているウラヌさんの所に行く。
「ウラヌさん今日はありがとうございました」
「こっちこそ感謝しているぞ坊主ども!」
護衛の依頼が終わりウラヌさんと別れた僕達は仮拠点になる宿屋に向かう。
部屋を借り、僕と夏樹は休憩がてらログアウトすることにした。
「二人ともご飯よー!」
母親の声が聞こえ体を起こし外に出ると丁度夏樹と出会い一緒に一階向かい、それぞれの席に座り家族団欒で夕飯を食べる。
「亜樹も夏樹も部屋に引き籠って何しているの?」
「ゲームしているだけだよ」
「二人して?」
「一緒のゲームしているんだよ、なぁ兄貴」
「うん」
母親は箸を置き右手を頬に添える。
「亜樹がゲームなんて珍しいわね。なんてゲームなの?」
「リベルシオンオンラインってゲームなんだけど」
名前を聞いた途端母親は両手を合わせ嬉しそうにする。
「お父さんの会社のゲームをしてるの! ねぇお父さん聞いた?」
母親は興奮して父親を揺らす。
「聞いているから、落ち着け」
「あら、ごめんなさい」
父親は服装を正し、ごほんと咳き込む。
「二人とも、この事は他言無用で頼む」
父親が関わっていることに驚きしつつ静かに頷いた。
すると、夏樹は箸を置き最初ダンジョンで変わったボスモンスターが出現した事尋ねた。
「……その事に関しては私の口からは言えない。ただ、連休明けにお知らせがある。それしか言えない。すまん」
それだけ言った父親はさっさと食べ部屋に戻っていく。
僕と夏樹も食べ終え部屋に戻る。階段を昇っている時に夏樹が話しかけてくる。
「知らせって何だろうな~」
「うーん、仕様変更とかじゃない?」
「かな~。まぁ明後日にわかるしいいか。兄貴、まだ時間あるけど今日ダンジョン入るの? 多分終わるの朝方になっちゃうけど……」
「明日で連休終わるし、ちょっと無理して潜っちゃうか?」
「了解! 兄貴キツかったら言ってね」
「わかってる」
それぞれの部屋に戻りログインする。必要なアイテムを揃え薄暗い道を通りダンジョンに向かった。




