第29話
スザクと戯れてから大分時間が経ったのだが未だに元のサイズに戻らない。特に急いではいないからいいけどゆっくり待つかな。
「あ、そうだ。アルナさんに連絡しないと、なんだけど……」
クリアしたけども連絡してもいいのか悩む。
そんなことを考えていると通知音が鳴り確認するとアルナさんからだ。
『ウィル〜今平気?』
『平気ですけど』
『あのね、ウィル達が行ってるダンジョンでなんか変わったボスモンスターが出たらしくてね、さっき討伐の為にパーティが組まれたらしくてそっちに向かっているらしいだけど、二人とももう外にいるの?』
なんてタイムリーなんだ。
僕はどう答えようか考えていると複数人による足音が聞こえた。アルナさんが言っていた討伐パーティのプレイヤーかな?
「キュッア!」
「ん? ってわあ!?」
スザクは急に僕の服を啄み背中にヒョイっと乗せる。続いて夏樹も背中に乗せられた。
そしてスザクは走り出し、翼を羽ばたかせたと思ったらスザクは空に向けて飛んでいく。
僕と夏樹は必死にスザクにしがみついた。
しばらくして揺れが収まり僕は恐る恐る目を開ける。一面にオレンジ色の夕焼け空に傾いている太陽の日差しを反射して海はキラキラと光っている。何とも幻想的な光景に僕は目を奪われた。
横にいる夏樹を見るとまだ目を閉じている。僕は夏樹に声を掛けた。
「夏樹、もう大丈夫だから目開けてみて?」
「無理! 高い所苦手だから無理!」
夏樹は頑なに目を開けようとしない。手も震えている。本当に苦手なんだな。
「スザクどこか陸に……ておいおいここで元のサイズに戻るのはまずいって!」
遥か上空で制限時間が来たのかスザクは縮んでいき元のサイズに戻る。小さくなったことで背中にいた僕と夏樹は海に落下する。
「うわあああ死ぬ! 死ぬって! マジで死ぬって! 兄貴……!」
夏樹が騒がしくしているおかげでどうにか冷静でいられた。
スザクは必死に僕の服を足で掴み飛ぼうとするが体重差もあって落ちる一方。僕はスザクを戻して急いでゲンブを召喚する。
「カメ?」
「ゲンブ! 前に夏樹にした水球をお願い!」
「?……! カメメ!」
理解したゲンブは水を操り、海面にぶつかる手前で僕と夏樹は水で包まれそのまま海に落ちた。
「ぶはっ! はぁ……はぁ……夏樹?」
浮上した僕は周りには夏樹の姿が見当たらないなかった。
「夏樹ー!! どこだー!」
「カメメ」
夏樹を呼んだのにゲンブが返事をし振り向くと夏樹は海面に浮き、ゲンブは腹の上にいた。泳いで近づき確かめると夏樹はHPは減っていないが気絶していた。
「よかった、怪我無くて……ありがとなゲンブ」
「カメ!」
ゲンブはまた水を操り僕と夏樹を陸地まで運んでくれた。
陸地に着いた僕は夏樹を背負い転移結晶を使い街に戻り、宿屋に泊まった。
「はっ! 死ぃぃぬっ! ………………あ、れ、生きてる?」
「生きてるよ。さっきから五月蠅いよ夏樹」
ベットで寝かせていた夏樹は起きたそうそうに騒がしくする。
夏樹が落ち着いてから海に落ちてからの流れを話した。
「兄貴ごめん……また、俺――痛っ!」
夏樹が言おうとしていた台詞を遮りデコピンをする。
「迷惑じゃないから謝らない。次も同じこと言うならデコピンな?」
「うぅ……」
夏樹は少し赤くなった額を押さえる。
時刻を見るともうすぐ昼の四時。そろそろ夕飯時だな。
「夏樹、そろそろ夕飯だからログアウトするよ」
「了解。あ、兄貴! 寿司忘れないでね!」
「はいはい」
ログアウトして僕は出前を取り夏樹と一緒に夕飯を食べ始めた。何かを忘れている気がしたが、思い出せずモリモリと出前寿司を次々に頬張った。




