第28話
ゆっくりとクイーンクヴァレは浮上し全貌を現した。
高さはだいたいマンション三階分――約十メートル――ほど。頭部だけではなく体中に苔が生えていた。そして、大きな二本の触手から時々電気が発せられた。
「兄貴あいつの攻撃パターンわかっているのだけ教えて」
「わかっているの触手で攻撃と壁にして守りに使うのと、後は水壁を作る。で、あれ見てだけど」
「電気でしょ?」
「多分あるよね……!」
夏樹に情報を伝えているとクイーンクヴァレは二本の触手を大きく振り降した。僕と夏樹は大きく後ろに飛び避ける。
避けたと思っていた触手は伸びて僕と夏樹を追撃してくる。僕はフレイムソードを展開して迎撃。夏樹は刀で上手く受け流し触手に攻撃する。
「硬っ……!」
触手は硬く夏樹の攻撃は傷一つ付かなかった。
「スザク、僕は平気だから夏樹の援護に行って!」
「チュン!」
スザクは夏樹の元へ飛んでいく。
スザクが居ればレベルが低くてもどうにかなるだろ。
「キュワアアアアン」
クイーンクヴァレは突然鳴き、触手を一旦引き体を震わす。すると、クイーンクヴァレの体中の苔が部屋全体に撒き散らされた。
撒き散らされた苔に触れた瞬間体に異変が起きる。
「な、なんだ……体が……」
ステータスを見ると毒状態のアイコンが付いていた。夏樹とスザクのステータスにも毒状態のアイコンが。全体攻撃で毒状態にするのはキツイ。どうにかしないと。
だが、クイーンクヴァレは待ってくれる訳もなく電気を纏わせた触手で攻撃してくる。僕と夏樹は毒状態のまま触手を避ける。
「このっ! っうわあああ……!」
反撃した夏樹は刀を伝ってクイーンクヴァレの電気に感電し、夏樹の動きが止まる。
すかさず触手が夏樹を叩き、地面に激突する。夏樹のHPが三分の一になる。
「夏樹!」
夏樹に駆け寄るが触手が邪魔をする。
「邪魔、だあ!」
僕はフレイムソードを集約して邪魔する触手を貫いて行く。
「ぐっ……」
前しか見てなく横からの触手に気付かず攻撃をもろに受け僕も壁に激突。僕のHPはレッドゾーンに突入した。更に毒状態でHPは減っていく。毒だけでもどうにかしないと。
気力を振り絞り残りのMPを使いファイアーウォールを連続で唱え、どうにか苔を燃やし尽くせた。
おかげで僕のMP残りわずになってもう魔法は使うことが出来なくなった。
「兄貴、上!」
夏樹の叫び声が聞こえ上を見ると触手が振り下ろされていた。
あの攻撃が当たればHPが無くなる。だけど、体はもう動かない……僕は見つめるしか出来なかった。
「チューーーン!」
スザクが物凄い速さで触手に突撃し触手は弾かれた。スザクは反動により地面に落下し始めた。
動かない体に鞭打ち、どうにかスザクを手で受け止めることが出来た。
「スザク……無茶するなよ……ありがとな」
「チュン!」
HPは半分減っているのにスザクは元気で返事をする。そんな姿をみて僕は少し元気が出た。
「キュワアアアアン!」
その時、クイーンクヴァレは体全てに電気を纏い始めた。
「チュンチュン!」
スザクは力強く羽ばたき右肩に止まる。小さな瞳のスザクだが僕から見てもやる気に満ち溢れていた。ここで諦めたらこいつらの召喚士として失格だな。
ポーション系はもうない。HPは雀の涙ほどで、MPはもうないけど諦めない。最後までやる。
「あいつを倒そうスザク!」
「チュン!」
「兄貴! 俺の事も忘れないで欲しいんだけど」
「忘れてないって」
夏樹とも些細な会話しているとクイーンクヴァレは動き出した突撃してくる。
その時、僕の目の前に【一時覚醒の条件が達成されました】とウィンドウ画面が出てきた。
僕は夏樹の前に出る。
「兄貴?」
「夏樹、そこから動かないで」
「え……?」
夏樹に理由を言わず僕は突撃してくる見据える。
「スザク行くよ!」
「チュン!」
ウィンドウ画面の【YES】を押す。
「キュッアアアアアアァァ!」
スザクの体はどんどん大きくなり五メートル程の大きさになる。
突然大きくなったスザクの姿を見たクイーンクヴァレが急停止する。
スザクは翼を広げるとクイーンクヴァレの足元から黒い炎が柱のように燃え上がり天井ごとぶち抜いてクイーンクヴァレを空へ放り出した。
あとを追うようにスザクも飛んでいき、十本の黒い炎の剣でクイーンクヴァレを切り裂きクイーンクヴァレのHPはなくなった。クイーンクヴァレを倒したことでダンジョン自体は攻略扱いされたのか上の方から盛大なファンファーレが流れた。
「スザク~。あれが前に言っていた一時覚醒?」
「うん。相談しないで使ってごめん。それに大変だったのに経験値も入んなくて……」
夏樹は空を見上げ頭の後ろで手を組み答える。
「気にしてないよ。それに、今回のはイレギュラー中のイレギュラーだと思うしいいんじゃね?」
「ふふ、了解」
「それよりも兄貴、めっちゃ疲れた~!」
夏樹は大の字にし地面に倒れる。僕も大の字になり倒れた。
天井が抜けたところから差し込む日差しに心が落ち着くのを感じた。
「兄貴、腹減った……ログアウトしたらなんか飯作って~」
「えーそんな気力ないよ。出前にしない」
「じゃ寿司で! 松にしよう!」
「贅沢だな。今回だけだよ」
「やった!」
そんな話をしていると大空を飛んだことに満足したスザクが戻ってくる。
「お疲れ様スザク」
「キュッア!」
俺は労いの言葉と共に撫でる。すると夏樹がむくりと体を起こし言う。
「俺も撫でる!」
「キュッア!」
結局スザクが元の姿に戻るまで僕と夏樹は危機が去った洞窟内で戯れることにした。




