第26話
広い場所でしばらく休みHPは回復したが夏樹はまだ寝ている。相当疲れたのだろう。敵モンスターは今の所見かけない。それまでは夏樹を横にして寝かせておこう。
その間にインベントリの整理だ。
今あるのはポーション類少々とダンジョン脱出出来る転移結晶のアイテム。これを使うとまた最初からダンジョンを攻略しないと行けなくなるが念の為に買った物だ。
あとは中ボスのミストレオパルドとナイフフィッシュに道中で出会った敵モンスターのドロップアイテム。そしてアテムアさんから貰った蜜柑だ。
インベントリから一つ取り出し皮を剥いて食べやすい大きさに分け口に運ぶ。少し酸っぱいが甘く体の疲れが取れていく気がした。
「チュン?」
右肩に止まっているスザクが興味津々に見てくる。
「食べてみる?」
「チュン!」
スザクの口元に蜜柑を近づけるとゆっくり嘴で啄み始めた。
「チュンチュン!!」
余程美味しかったのかあっという間に食べ終えた。
「もう一個食べる?」
「チュン!」
スザクは頷く。今度は皮を剥いた丸々一個の蜜柑を上げるとスザクは翼を広げ喜び啄むのに夢中になった。
スザクがここまで喜ぶとは思わなかった。どこかで三匹にも食べさせたいなあ。
そんなことを考えながら僕も蜜柑を食べる。本当に美味しいなあ。
――ピコン。
通知音が聞こえ確かめるとアルナさんからだ
『やっほー! ダンジョン攻略どう? 順調?』
『今二階層のナイフフィッシュ倒して少し休憩してます』
『ナイフフィッシュだったんだ! 私も最初行った時はナイフフィッシュでさ、数に押し負けたんだよね〜。まあ今じゃ負けないけどね!』
そうだ、とアルナさんは続ける。
『今日中には攻略出来そう?』
そう言われて僕は時間を見ると昼を少し超えていた。
このままのペースで行けば今日中には攻略出来そうだ。
『多分攻略出来るかと思いますよ』
『そっか! クリアしたら知らせて! 絶対にだよ! それじゃ頑張ってね! バイバイ!』
なんだろうと考えながら蜜柑を食べているとドタバタと足音が聞こえる。敵モンスターかと思い息を殺し死角に隠れる。
「なんだあのボスは! 攻略サイトに載ってるボスじゃなかったぞ!?」
「俺たちに聞かれてもわかんねーよ!」
「とりあえずこの事を知らせないと……」
「そうだな。急いで戻るぞ!」
敵モンスターではなくダンジョン攻略に来ていたプレイヤーのパーティは足早に去っていく。
どうしたんだろう?確か、攻略サイトとは違うボスだ的なこと言っていたな……
ボスは固定と夏樹が言っていたのだが、仕様でも変わったのか?
「チュンチュン!?」
スザクが急に慌て赤い光を発すると火の玉が飛んでいき何かに当たり焼けた臭いがする。
視線を向けると緑色の触手のような物が夏樹を包み持ち上げていた。
「夏樹……!」
僕とスザクは魔法を放ちまくるが触手の壁が邪魔して届かない。触手の壁を壊した頃には夏樹は居なくなっていた。
「くそっ!」
夏樹を守れなかったことに怒りを覚え壁を殴る。
「チュン……」
仲が良いスザクも守れなかった事に落ち込む。
スザクの頭を撫で夏樹が消えた方向を見ながら昔を思い出す。
小さな頃に夏樹と公園で遊んでいたら少しトイレに行って戻ってくると砂場で遊んでいた夏樹の姿は公園のどこにも居なかった。近場を探しても見つけられず、不安になり泣きながら家に帰り両親にありのまま話した。両親は慌てて何処かに電話を掛け。数時間が経ち夏樹はパトカーに乗って帰って来た。
両親から誘拐されたと聞かされた僕は夏樹に抱き付き涙を流して心の底から謝った。ごめん、守れなくてごめん、と。
だけど夏樹は笑いながら「怖かったけどお兄ちゃんが側にいたから平気だったよ?」とズボンから誕生日にプレゼントしたストラップを見せてくれた。その時から僕は夏樹を守ると誓った。それなのに!
ここはゲームで現実に戻れば夏樹はいるけど、もうあんな思いはゴメンだ! 今度は僕が絶対に助ける!
「スザク、夏樹を助けに行くよ」
「チュン!」




