第25話
二階層も順調に進みあっという間に一番奥まで辿り着く。そこには大きい扉が待ち構えていた。
「兄貴、次の中ボスなんだけど二パターンあるんだ」
夏樹は説明してくれた。
単体で出現する防御力がめちゃくちゃに高い亀型敵モンスター サウザンドタートルと、一体一体はそこまで強くないけど複数で出現するナイフフィッシュの二パターンだそうだ。
「どっち出るのか分からないのか……対策しようがなくない? ここ初心者向けなんだよな?」
「運営曰く臨機応変に対応できる者こそが冒険だ! って事でダンジョンは固定のラスボスと中ボスに加えランダムな中ボスが出現する仕様なんだ。他のダンジョンに比べてここは情報も公開されてるし、レベル低くて攻略しやすいから初心者向けだよ、一応は」
「一応なんだ」
「たまに詰む人もいるらしいよ〜。じゃあ兄貴扉開けるよ!」
「了解ー」
扉はギィーと音を立てながら開いていく。警戒しながら進み中央に着くと扉は閉まり照明に光が灯る。
中央にしか陸地は無く周りは水に囲まれていた。
「これは……ナイフフィッシュか! 兄貴! 水の中から――」
その時、夏樹の顔横に何かが通り過ぎた。夏樹の頬にスーッと切り傷ができ血が垂れる。
間をあけずにまた何かが飛んでくるが、今度は反応出来た夏樹が叩き落とし、そいつは陸地で跳ね回った。
銀色の鱗に頭やヒレは全てナイフ状になっていた。鑑定するとナイフフィッシュと名前が出る。
夏樹は飛んでくるナイフフィッシュを一体一体倒していく。僕も対応していくがキリがない。それに少しずつだがこちらのHPが減ってきてる。このままじゃジリ貧になる。
「ウォータータワー!」
僕を対象にして水属性の範囲魔法を放つ。自身を対象に出来るか不安だったが行けた。
ゲンブを召喚していたおかげで威力と範囲が広がったウォータータワーにナイフフィッシュは次々に倒されて行く。
しばらくしてウォータータワーが終わるとナイフフィッシュは居なくなっていた。
「終わった、のか?」
「兄貴! その台詞は言っちゃダメ!」
その時、水面が揺れ次々にナイフフィッシュが空中に待機している。
僕と夏樹は背中合わせになる。
「兄貴、これって地味にやばくない?」
「やばいけど、どうにかしないと」
「兄貴、MPいくつある?」
「半分切ったところ、先に言うけど範囲魔法はあと一回しか使えないからな」
「マジか……しゃあない俺も範囲スキル使うかしかないか」
「15で覚えたスキル?」
「おう。兄貴と違って範囲は狭いけどな。それと兄貴、火力上げたいからスザク出して欲しいんだけど行ける?」
「MP全部使えば召喚出るけど……一緒に範囲系使った方がいいんじゃない?」
「それも考えたけど、こっから持久戦になるから範囲は狭いけど少ないSP消費で長く使える俺の範囲を使って兄貴にはサポートの方がいいかなって」
それに、と夏樹は続ける。
「兄貴に良いところ見せたいじゃん?」
夏樹の理由を聞いた僕は深いため息をついて呆れながら言う。
「……わかったよ。サポートは任せて思い切りやって来い」
「おう!」
「来い――」
スザクを召喚するタイミングに合わせて隙間なく空中で待機してるナイフフィッシュが雨のように降り注ぐ。
「兄貴は俺が守る! スキル【抜刀】からの範囲スキル【乱桜】!」
夏樹の体から赤いエフェクトが出ると目に止まらない速さで次々とナイフフィッシュ切り倒す。
「来い、スザク!」
「チュン!」
再度唱えスザクを召喚するとスザクは定位置の右肩に止まる。
すかさずMPポーション使ってMPを少し回復。ギリで使える分まで回復出来た。
「ファイアーアップ!」
夏樹の体が更に赤みが増す。
「サンキュー兄貴! はああああああああ!!」
雄叫びを上げ夏樹はどんどんとナイフフィッシュを切り倒していく。そしてナイフフィッシュの数は減りようやく居なくなった。すると周りの水がなくなり道が出来、その先に扉が現れた。
「お、終わった……」
緊張の糸が切れ夏樹が倒れこみそうになるが急いで駆け寄り支える。
「夏樹大丈夫か……?」
「ヘヘッ……疲れた……」
夏樹は目を閉じ寝息をたてる。
僕は夏樹を背負い扉を通り少し広い場所を見つけそこで休むことにした。




