第163話
「無駄なこと……」
ルキは再び灰色の波動を展開してくる。また、あれに触れたら召喚獣達が戻されたしまう。
「【四神の共鳴・領域】」
召喚獣が大きく鳴くと光の線が伸び、召喚獣達を結ぶと結界が張られた。近づいてくる灰色の波動は結界に遮られ防ぐことが出来た。
四神の共鳴・領域は四体を召喚した時に使えるスキルで外からの攻撃を防ぐスキルだ。
「防いだ、と……! だが、この空間内では動けまい!」
灰色の波動が消える様子はない。僕はゲンブの甲羅に乗り、光の結界を召喚獣達に収束させる。
「小細工を……!」
ビャッコは駆け出し一瞬でルキの後ろに回り込み体当たりして打ち上げる。
「くっ! は、離せ!」
打ち上げられたルキをスザクが肩を足で掴み広い部屋を高速で飛び回る。
スザクが離すと今度はセイリュウが激しい竜巻を起こしルキを閉じ込めた。すると、なにかが目の前に飛んできた。
拾い上げるとそれは蝶の髪飾りだった。
「セイリュウ、お願い」
セイリュウは見下ろし見つめてくる。僕は頷き返すとセイリュウ流行れやれと言いたげね表情をして竜巻を消してくれた。
「貴様……! っ! それは我の! 返せ!」
ダメージはほとんど無く髪がぼさぼさのルキが僕の手元にある蝶の髪飾りを見つけると凄い剣幕で返せと言ってくる。
「それは我の――」
「大事な物なんでしょう? 返すよ」
「……」
睨んで警戒するルキを気にせず、召喚獣達が見守る中、僕は歩いて近づいていく。
ルキは近づいてきた僕に手を伸ばすが、僕は無視してルキの髪に付けてあげて、優しい表情をして言う。
「うん、やっぱり似合うよルキ」
ルキは恐る恐る髪飾りに触れるとみるみるうちに目が見開いていく。
「ウィ、ル……?」
「……! そうだよ……思い出して、くれたんだね……!」
たどたどしく僕の名前を呼ぶルキに思わず涙が込み上げてくる。そんな僕にルキは胸に飛び込んできた。ルキの方が身長は高くて格好つかないけど、優しくルキを抱きしめた。
「ごめんなさい、私……!」
「大丈夫。大丈夫だから」
優しく頭を撫でながら僕はルキに言い聞かせる。顔を上げるといつの間にか召喚獣達も周りに集まっていた。
「皆、ルキの帰り待ってるから、帰ろうルキ?」
「私帰りたい……皆の所に。でも、今の姿じゃ……」
「どんな姿でもルキはルキだよ。行こう」
僕は手を差し出す。
「うん!」
ルキは僕の手を掴んでくれた。僕は少し大きくなったルキの手を強く握り返した。
ルキは灰色の波動を解いてくれたので僕も四神の共鳴・領域を解いて階段に向かう。
「あぁああああ、あぁぁぁあああああああああっ!」
突如、ルキは頭を抱え苦しそうに叫び出した。
ルキに手を伸ばすと叩かれ、ゆっくりと後退していく。
「こ、ないで……! うっ! ああああああああああああ!」
ルキから強烈な光が発せられ僕は光に包まれた。
「……ん、一体、なにが……?」
気が付いた僕は周りを見回すと天井は崩壊していて、壁もボロボロで外に剥き出しの状態だった。外は朝か夜かどっちなのか分からない空模様だ。
召喚獣達は瓦礫の下敷きになっていたけど、瓦礫を押し退け無事な顔を見せてくれて胸を撫で下ろした。
ルキは意識が無いのか、翼を外に放り出してぐったり倒れていた。
痛む体に鞭打って立ち上がり、ルキの下に足を引きながら向かった。
その時、ゴゴゴと鈍い音と共に部屋全体が揺れ僕は態勢を崩す。視線を上げると、ルキの周りの床に罅が入る。
「ルキ!?」
僕は立ち上がり急いで向かうも、無情にも床は崩れルキは落下していく。僕はルキの後を追うように落ちていった。
「ルキっ!」
必死で呼びかけるも反応が無い。ていうより、声が届いていない。
僕は出来る限り風の抵抗を少なくさせるために姿勢を変え、ルキにどうにか追いつく。
そして、海面が近づき、僕はルキを守るように姿勢を変えたタイミングで下からすごい勢いの風が発生して僕とルキは上昇する。そこには滞空しているスザクとセイリュウがいた。
僕はセイリュウの背に掴まり難を逃れた。突然起きた風はセイリュウのおかげだったのか。
「ありがと、セイリュウ」
「ガウ!」
「ガメ!」
セイリュウの頭の上にいた小さい姿のゲンブとスザクの背に乗っていたビャッコが、僕達もいるよとアピールしてくる。
「ゲンブもビャッコもスザクも今日はありがとな」
僕は召喚獣達にお礼を言うと上空にある浮遊城が轟音と共に崩れていく光景が目に入り、急いで離れていった。
「夏樹達無事、かな……」
すると僕宛に通知が届き、確認すると夏樹からで、浮遊城が崩れ始めたタイミングで城にいたプレイヤーは脱出したそうだ。とりあえず一安心だ。
「帰ろう」
浮遊城がゆっくり崩壊していく光景を横目にして、ルキが落ちないように支え、太陽が昇り始める空を飛んで僕達は屋敷に向かった。




