第156話
オロバスからのドロップアイテムの中に紙の切れ端はなかった。その代わりに洋風の少し不気味な人形が大量のにドロップした。思わず顔が引きつる。
「い、いる人……?」
そう尋ねると全員凄い勢いで首を横に振った。
「夏樹……」
「兄貴の頼みでも絶対嫌だからな! そんな夜中に動き出しそうな見た目な人形をインベントリに入れたくないからね!」
夏樹の言葉に五人はうんうんと頷く。僕も仕舞いたくないんだけど……
「わかったよ……」
僕は渋々大量の人形をインベントリに仕舞った。
そんな会話をしていると倒れていた四人が目を覚まし体を起こす。僕達は急いで駆け寄った。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「ああ……君達が助けてくれたのかい?」
丸眼鏡を付け優し気な雰囲気のある白いローブを着た男性が尋ねる。
「はい。入った部屋でダンジョンボスのオロバスに襲われそうになっていたので、間に合ってよかったです」
「そうか……自己紹介がまだだったね。一応この即席パーティーのリーダーを務めているラグだ。ジョブはハイプリースト」
「僕は――」
「君の事は知っているさ。このイベントの主催者のウィリアム君だろ?」
にこやかにラグさんは僕の名前を言う。
それから軽くメンバー紹介をしてラグさんから事情を聞くと、オロバスとの戦闘は序盤は特に問題なく順調にHPを削っていたのだが、途中からオロバスの周りに幽霊が召喚され、それに触れられた途端昏睡のデバフがついて意識を失っていたそうだ。
「あの幽霊にそんなデバフがあったのか! こわっ!」
「アスク、感謝しろよな」
「ヴェスナー様に感謝感激いたします」
「はっはっはっ!」
二人の芝居じみたやり取りにくすくすと笑いが零れほんの少しだけ緊張が解れた気がする。
ラグさん率いるメンバーと共に部屋の攻略を進めていく。
「ウィル君だ!」
「お前達か」
「レオルさんにグラさん!」
扉を開けた部屋の先でレオルさんのパーティーとグラさんのパーティーと遭遇した。どちらも大人数になっていた。僕達は近況報告を交わす。
「俺達はダンジョンボスを……十体ぐらいかな?」
「我らは十二体だ」
「はぁ? グラさん喧嘩売ってるの?」
「ふん」
「ちょっと二人共! 喧嘩は止めてください!」
「「ふん!」」
仲裁に入ると二人はそっぽを向いた。
「あはは……あ、そうだ。レオルさんとグラさん」
僕はインベントリから紙の切れ端を取り出して二人に見せる。
「これダンジョンボスからドロップした物なんですけど、二人は持ってます?」
「あ! それなら……はい、これだよね?」
レオルさんの掌にある紙の切れ端を手に取り、僕が持っているのを近づけるとぴったりくっついた。
「それくっつくんだ~。グラさんもないの?」
「我は持ってない。デルト!」
「はい、これですよね」
デルト呼ばれた男性がグラさんに紙の切れ端を渡す。
僕はグラさんから受け取りくっつくける。
「あと一枚って感じだね。集めたらなんかあるのな?」
「多分あると思います」
「そっか、それじゃ……よし、グループチャットで知らせたよ。これで情報来るといいけど」
「ありがとうございますレオルさん」
レオルさんの仕事の速さに驚きつつもお礼を言う。
しばらくすると持っているというプレイヤーから報告が来た。
来たのはいいけど問題が一つある。浮遊城の中ではプレイヤー同士のアイテムの受け渡しは手渡しでしか出来ないのだ。困ったな……
「手分けして探すしかないのか……」
「それかダンジョンボスを倒すかだね~。もう出ないとは限らないじゃん?」
「確かにそうですね」
「よし、決まり。グラさんもそれでいいよね?」
黙って聞いていたグラさんにレオルさんが尋ねる。
「強き者と戦えれば我は何でもよい」
「あっそ。んじゃ、そういうことで。それじゃ次の部屋に……ってないじゃん!」
レオルさんの言葉に僕も部屋を見回たして次の部屋に続く道がないことに気付いた。部屋にいたプレイヤー達の間でざわつく。
その時、部屋の照明が落ち天井の一か所が照らされ、ぱかっと開いてゴンドラが下がってくる。ゴンドラの中に白い紳士服にシルクハット。そして、特徴的な仮面を付けた人物が乗っていた。
「プレイヤーの諸君! 楽しんでいるかね! ぶははは!」
その人物は案の定メフィストだった。




