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バグから始まるVRMMO活動記  作者: 紙紙紙
153/165

第153話

 それからいくつもの部屋を巡るも遭遇するのは敵モンスター。数は多かったけど特に苦戦ことることはなかった。


「今ので最後かな?」


 蠍型の敵モンスターを倒し終えた夏樹は周りを見回して呟く。壁に扉が出現したってことは最後のようだ。


「ナツキさん、キャサリンさん、今回復しますね」


 前線で戦う二人にアイリスさんは魔法を掛ける。


「あら、助かるわ~。それにしても他のプレイヤー見かけないわね」


 僕達を含めて約千五百人いるプレイヤーなのに未だに遭遇しない。どれだけ広いんだよ……

 床に腰を下ろして休憩をしていると、閉じていた扉が勝手に開き一気に緊張が走る。


「あれ? ウィルとナツキじゃん!」


 ヴェスナーの姿を確認して僕達は胸を撫で下ろした。その後ろから見覚えのある召喚獣が姿を現した。

 それはナハルヴァラのカジノでのレースに参加していた全身ダイヤモンドで出来た狼――ダイヤモンドウルフだ。


「待ってくれよヴェスナー」


 案の定、最後にアスクさんが姿を見せる。


「あ! あんた! レース会場の人! えっと……」


「ウィリアムです。お久しぶりですねアスクさん」


「そうそう。いや~あんときは悔しかったぜ。次は勝つからな」


「ここを攻略した後なら」


「おう、約束だからな?」 


 アスクさんと約束した後フレンド交換をした。


「二人で行動してたの?」


 夏樹がそう尋ねるとヴェスナーは言いづらそうな表情をするもゆっくり口を開く。


「他にも二人いたん、だけど……敵モンスターと戦闘中に罠に引っかかってな。俺ら二人だけ残ったんだ」


「凄いわ二人共! 褒めてあげるわ!」


 キャサリンさんはヴェスナーとアスクさんを逞しい腕でハグをする。二人は嫌そうに表情を浮かべていた。


「よく無事だったな?」


「アスクに防御を任している間にセゾンから拝借――借りた特製の劇毒薬を拡散させて時間かけて凌いだんだ」


 そう言いながら懐から空になった瓶を見せるヴェスナー。今拝借って言わなかった?


「まぁ、そんなことでよろしく」


 キャサリンさんの腕の中でそう言うヴェスナーだった。アスクさんは若干グロッキー状態だ。

 二人が仲間になったことでパーティーの守りが数段跳ね上がり夏樹とキャサリンさんの被弾も減り安定した。

 順調に出現する敵モンスターを倒し部屋を巡っていくと部屋の中央に青い白い火を揺らめかす蠟燭が一本立っていた。


「行くしかないか……」


 僕の言葉に皆が頷く。

 警戒しないがら進んでいくと扉が閉まり、一気に緊張が走る。突然、蠟燭の火が消え暗闇に包まれた。


「皆大丈夫?」


「兄貴、こっちは平気」


「俺も問題ないぜ」


「右に同じく」


 夏樹とヴェスナーとアスクさんは特にないようだ。


「私も問題わよ。アイリスちゃん光魔法使えるわよね?」


「さっきから唱えています! でも、発動しないんです!」


 アイリスの言葉の後、再び蠟燭の火が灯ると目の前に幼少期の夏樹が現れ僕は目を見開く。

 そんな夏樹は僕の前に歩いてくる。


「お兄ちゃん」


 体の後ろで手を組み見上げる夏樹。瓜二つな姿で誘拐された時の服装をしていて僕は動揺した。


「お兄ちゃん、なんであの日僕を遊びに誘ったの? おかげで僕……誘拐されたんだよ? お兄ちゃんと遊ばなければよかった。お兄ちゃんと一緒に居なければよかった。お兄ちゃんと……」


 その続きを聞きたくない僕は思わず耳を塞いだ。 


「兄弟じゃなければよかった」


 小さい夏樹は僕の周りを「嫌い、大嫌い、居なければよかった」を繰り返し何度も言う。

 僕は耐え切れずしゃがみ込んでしまう。早くどっか行ってくれ。悪夢なら覚めてくれと願った。その時、ぼとりと目の前で何かが落ちて、目を開けると夏樹にプレゼントしたストラップだった。僕は手を伸ばして拾い上げる。


「……夏樹がそう思っていないと思いたいけど、真実は分からない。それに僕と夏樹には血の繋がりはない。だけどね!」


 僕は立ち上がる。


「夏樹は僕の大事な弟で、大事な家族だ! 消え失せろ! すべてを燃やし尽くせスザク!」


「キュッアアアアア!」


 召喚されたスザクは辺り一帯を青い炎で燃やし尽くして小さい夏樹は消える。それと同時に、パリンと空間が割れた音がして気が付く元の部屋に戻っていた。周りを見回すと皆が床に倒れていた。

 体を揺すっても起きる気配はなくHPが徐々に減っていた。


「俺様の悪夢から目を覚ますとはな! 大人しくしてれば苦しまずに済んだのによクソプレイヤー!」


 その汚い言葉を発する人物に僕は睨みつけそいつ名を口にする。 


「ダンタリオン……!」




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