第15話
視界が暗転して目の前には三階建ての赤い屋根の白い建物が現れる。
「ここ、は……?」
日本庭園を彷彿させる圧巻する庭に目が釘付けになりながらアルナさんに尋ねる。
「ふふふ。凄いでしょ? ここは私が所属しているクラン《蜜柑の園》のハウスだよ!」
「蜜柑の園?」
庭を見回してもあるのは松の木のみ。果物が成りそうな木は一本もない。
「なんでそんなクラン名? 蜜柑の木ないけど……」
僕の疑問を夏樹が代弁して聞いてくれた。
「お、弟君そこ気になる感じ?」
「まぁ……」
アルナさんはくるっと回って答える。
「クランを作る前にハウスを購入してたんだ。その当時はね庭には一面蜜柑の木があったんだ。そこから取ったんだ~」
「そうなんですね。今はもう一本もないんですか?」
「今は地下に移動しているよ。なんか詳しくは知らないけどアテムアがさ、地下で栽培出来るようにしたのよ」
「へぇー」
「あ、アテムアって言うのはこの庭を作った人ね! 戦闘職より生産職と採取職に特化した変わった人だよ~」
「誰が変わった人だって?」
その時青いツナギの上部を腰に巻いて白いシャツを着ている褐色系の肌をした女性が笑顔で現れた。
笑顔だけど目が怒ってる?
「っげ……アテムア……」
冷や汗を流し気まずくなったアルナさんは僕の後ろに隠れた。
えぇ……
「おい、あんた。そいつを庇うなら!」
「庇いません! 差し上げます! ごめんなさい!」
「ちょ、ちょっと!」
アテムアさんの迫力に僕はアルナさんを差し出した。
そしてアルナさんは首根っこを掴まれハウスの中に入っていく。
僕と夏樹は置いてけぼりになってしまった。どうしよう。
「兄貴、どうしようっか」
「あはは……そうだね……アルナさんが戻ってくるまで庭眺めていようか」
「了解。あ、ハウジングエリア探検してきていい?」
夏樹はキラキラした目で見てくる。
「わかった。じゃここで待っているよ。気を付けて」
「おう!」
夏樹を見送り僕は小川に架かる橋に腰を下ろし眺めることにした。
しばらくすると意気消沈したアルナさんがとぼとぼ歩いてくる。
時計を見ると七時。一時間ほども説教されていたのか。ご愁傷様ですと内心で呟く。
「うぅ……疲れたよウィル……。あれ、弟君は?」
「探検に行ってますよ。戻るよう伝えますね」
「お願い~」
足音を感じ振り向くとアテムアさんが木箱を持って近寄ってくる。
「あんたがウィルか。アタイはアテムアだ。メインは銃を武器にする機工士だが、こいつが言った通り生産と採取を主にしている」
「えっと、ウィリアムです。まだ、見習いですが召喚士です」
「ウィルじゃないのか?」
「はい、ウィリアムです……」
アテムアさんの目がカッと開きアルナさんを凝視してる。
そんなアルナさんは視線を明日の方向に向いていた。
アテムアさんは溜息をついて言う。
「まぁいい。アタイもあんたのことウィルと呼ばせてもらうよ。それとこれは詫びだ。受け取ってくれ」
アテムアさんから木箱を渡され中には瑞々しい蜜柑が箱の隅まで詰まっていた。
「こんなに頂いていいんですか……?」
「ああ。沢山あるから構わないさ」
「ありがとうございます!」
「兄貴ー!!」
頂いた蜜柑をインベントリにしまい終わると丁度夏樹も帰ってきた。
夏樹もアテムアさんと挨拶し終わりやっとフィールドに向かうことになった。
フィールドに繋がっている門に着く間にアルナさんがレベル上げの方針を決める。
「とりあえず弟君を16まで上げればダンジョンに行けるからそこまではフィールドでレベル上げにしようかなって思うけど、二人は何時まで行けるの?」
「俺は徹夜しても平気っすけど、兄貴は夜中はキツイっすね」
「そうなの? うーん、じゃレベル上げは零時前までにしよっか」
「わかりました。アルナさん改めてよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「おう、私に任せなさいな!」
その後、他愛のない話しているといつの間にか門を超えフィールドに出ていた。




