第137話
「そっちにウルフ三体行ったよ」
群れを成している所に僕は魔法を放ち同僚のブラオがいる所に逃げるように誘導して、それを通話で教えた。
「了解!」
しばらくして森の中で銃声が聞こえ、パーティーのブラオのステータスを見るとレベルが上がってようやくレベル10になった。
仕事終わりに同僚にレベル上げを頼まれて、今に至る。
ブラオと合流して木陰で腰を下ろして休憩。かれこれ三時間ぐらいぶっ通しでやっていた。
「あとレベル6上げればダンジョンの……なんだっけ?」
「《珊瑚の歌声》って所だよ」
「どんなところなんだ?」
珊瑚の歌声……順調に攻略していたのにダンジョンボスが何らかの原因で特殊な個体になっていて、スザクが一時覚醒してようやく倒せたところだったよな。懐かしいな。
「おーい、話聞いているか?」
記憶を遡っているとブラオに顔の前で手をひらひらとされた。
「あ、ごめん。うーん、綺麗なところだよ」
「綺麗なところ? 他には?」
「それは……行ってからのお楽しみに」
「なんだそれ。まぁいいさ。そう言えばルキちゃんは?」
「ルキなら……」
ビャッコの背に乗って森の中を駆けまわっているルキの位置を確かめると右の方から僕達の所に向かっていた。
少しするとビャッコとルキの姿が見えて、近づくにつれて減速していき、僕の前で止まる。
「お帰り、二人共」
ビャッコとルキを優しく頭を撫でる。
「よし、さっさとレベルを上げようぜ!」
「はいはい」
結構なハイペースでレベル上げを行い、ダンジョンに入れるレベルに到達したのはそれから二時間後だ当然、時間も零時を既に回っていた。
「疲れたー! でも、おかげでレベル16まで上げれたぜ」
「それは良かった。それじゃ時間だから――」
「兄貴!」
突然、夏樹の声が聞こえ声する方に視線を向けると夏樹が手を振っていた。
「兄貴、こんなところで……誰その人?」
僕の隣にいる同僚に視線を向けて尋ねる夏樹。
「会社の同僚の人。最近始めたばっかりで、レベル上げに付き合ったいたんだ」
「あ、そうなんだ」
夏樹の周りの空気が和らいだ気がした。
「どうも、兄貴の弟のナツキです」
「弟? このゲームの?」
同僚は変な視線を僕に向けてくる。
「リアルのだよ」
「へぇー。兄弟でやってんだ。仲いいな。ブラオです」
二人は握手をしたあとフレンド登録した。
「兄貴、時間もうやばくない? 大丈夫なの?」
「もうログアウトするよ。それじゃまた会社で」
「了解。今日はサンキューな!」
同僚と別れ、屋敷に転移してからログアウトした。
意識を戻した僕は部屋を出て風呂場に向かう。シャワーだけして汗を洗い流してスッキリする。
夏に近づいてきているのか段々と暑くなってきたな、最近。そろそろ扇風機出さないとな。
「兄貴、終わった?」
扉越しに夏樹の声が聞こえる。僕は扉を開く。
「お待たせ」
「んじゃ、兄貴の部屋にレッツゴー!」
「え、ちょっ!」
夏樹に背中を押され僕の部屋に入るとベットにうつ伏せで寝るように言われた。
何をするのかと思っていると急に夏樹が跨りマッサージを始めた。
「急にどうしたの?」
「え? 特にないけど、まぁリラックスしてて」
「う、うん……」
意外と夏樹のマッサージが気持ちよくて眠たくなってくる。
「兄貴、熟練度あげるなら言ってよね? 手伝うから」
夏樹の言葉に反応して閉じていた瞼を上げる。
「なんか聞いたの?」
「噂だけど」
「そっか……」
しばらく部屋に静寂に訪れる。
何を言おうか考えていると夏樹の手が止まり退いた。
「はい、終わり。どう? 俺のマッサージ技術。気持ちよかったっしょ?」
「うん。ありがとう夏樹」
夏樹はベットから降り部屋を出て行こうとする。
「夏樹。予定空いていればでいいんだけど、土日熟練度上げ付き合って欲しい……です」
夏樹は一瞬ポカンとしてからぶっと吹き出して腹を抱えて笑った。
「なんで敬語なんだよ。予定入れてないから付き合うよ。兄貴顔真っ赤。写真撮っていい?」
「おやすみ!」
恥ずかしくなって僕は毛布を頭から被る。
「兄貴、おやすみ〜」
扉近くの照明のスイッチを押して、照明を消してから夏樹は部屋を出ていく。
夏樹のおかげでモヤモヤがとれて僕は深い眠り就く。
翌朝、寝坊しかけて慌てて家を出た。




