第128話
一斉に駆け出す従魔と召喚獣達。
先頭を走るのはケレスさん。次にユスティさん。僕とアスクさんが並んで、その後ろにベムさん。クロノさんが最後尾だ。アースドラゴンが最後尾なのは意外だ。
序盤なのか皆様子見をしている。そのまま進み屋外に出て直線コースに入る。
『おや、クロノ選手の動きが止まったようだ』
コースのあっちこっちにあるスピーカーから聞こえるラウズさんの声で後ろを振り向くとアースドラゴンは動きを止めていた。そして、ゆっくりと口を開け、中心に炎が集まっていく。え、あれって……なんか、ヤバい気が……
「ブレスかよ! ふざけろ! ダイヤ!」
「ウォォォン!」
僕と並走しているアスクさんがダイヤモンドウルフに指示を出すと、アスクさんの周りがダイヤモンドで覆われていく。ああやって防ぐのか。
アスクさんだけではなく他の参加者も動き始める。
ケレスさんとユスティさんは加速系のスキルを使ったのかどんどん先に行く。届かない距離まで行くのだろう。
「目が回るーーーー!」
ベムさんは転がったバジリスクにしがみついて僕とアスクさんの横を通り過ぎていく。
アスクさんと目が合いお互いに苦笑いをする。
その時、アースドラゴンが雄叫びと共に灼熱のブレスが吐かれた。
「ビャッコ、お願い」
「ガオ!」
ビャッコはくるっと回り一鳴きすると地面が盛り上がり空高く土の壁がそびえ立ち、アースドラゴンの灼熱のブレスを完全に防いだ。
「ちょっ、ビャッコ!?」
すると、ビャッコは土壁を思い切り突撃してアースドラゴンに向けて倒す。どーんと激しい音と土煙が一気に舞い上がった。
土煙が晴れると目を回して気絶しているクロノさんと心配そうに見ているアースドラゴンの姿が見えた。あれ……大丈夫、なのか……?
そんなことを思っていると褒めて欲しそうにビャッコが見上げてくる。僕は深い溜息をついてから首元を優しく撫でた。後で謝ろうと心に決めて僕は移動を再開した。口をパクパクさせて驚いているアスクさんの隣を通り過ぎる。
しばらく進むと巨大な岩や倒木などの障害物が点々と置かれているエリアに入る。所々に砕かれた岩や貫通されている倒木などが見られる。多分、ケレスさんとユスティさんの戦闘後なんだろう。早く追い付かなきゃ!
「おーい! 待ってくれよ!」
僕の後ろからアスクさんが手を振りながら追いかけてくる。待ってって言われてもなレース中なんだけど……
減速することなく走っているといつの間に追い付いてきた。よく見るとダイヤモンドウルフはシュッとしていてスリムになっていた。。
「なああんた! 名前は!」
「……ウィリアム、です」
「俺はアスク! 金剛狼召喚士だ! よろしく!」
「よ、よろしく」
レース中なのにアスクさんはフレンドリーに話しかけてくる。
「痛っ! 舌噛んだ……! ダイヤ気を付けてくれ!」
「ウォン……」
ダイヤモンドウルフはそんなの知らないよと言いたげに鳴いたような気がした。
特にアスクさんからは邪魔――ずっと話しかけられていたけど――さられずに障害物が多いコースを更に進む。途中で気絶しているベムさんと従魔のバジリスクを見かけたけど、僕とアスクさんは放置することにした。
だんだんと障害物が少なくなっていき、続いていた道が途切れ、空中に足場が浮いていた。崖から小石を落としてみるも音が返ってくる気配がない。相当底が深いようだ。
前方では激しい攻防が繰り広げられている。序に、ゴールと書かれているアーチも見える。あそこを避けて行くと時間かかるよな突っ切るか?
「おっさきー」
そんなことを考えているとアスクさんは僕の隣を横切っていく。ダイヤモンドウルフは器用に浮いている足場を乗り継いでいった。
「僕達も行こうビャッコ」
「ガオオオオオ!」
急にビャッコが光を放つと激しく地響きが起こると地面が隆起していき、他の参加者ごと巻き込んで持ち上げていく。そして、僕の前にはゴールまでの道が出来ていた。
えっと、足場を乗り継いで行こうと思っていたんだけど……
『これは……予想外です……』
スピーカーからラウズさんの呆れの声が零れてきた。乾いた笑いしか起きなかった。
困惑している僕とは違って堂々と胸を張って道を進むビャッコ。そして、ゴールすると盛大なファンファーレが鳴り響く。
『勝者、ウィリアム選手!』
ラウズさんの声が木霊する。
まぁ何はともあれ勝ちは勝ちだ。僕はビャッコを沢山撫でた。




