第126話
「お前……この街でも何にか企んでいるのか……?」
高々に笑うメフィストに夏樹は睨みながら問う。
「我は何もしておらぬぞ勇者。各々が勝手にやっているまでよ。我は傍観しているだけだ! ぶははは!!」
その言い草だとあるってことだよな~。
「っち。俺達を巻き込むなよ」
「再度言うが我は何もしておらん。勇者の方から巻き込まれにきているのではないのか? ぶははは!!」
メフィストは僕を指差しながらそう言い切る。
「……確かに」
「そこ納得するところじゃないからな!」
腕を組んで納得する夏樹に思わず突っ込みを入れる。
すると、夏樹はジト目で見つめてくる。
「な、なんだよ?」
「べーつにー」
夏樹は唇を尖らせて言う。
そんな中メフィストはしれっと空いている椅子をルキの隣に置き座ると、どこから出したのかティーカップを片手に中の飲み物を啜る。
「ふむ、美味である」
「美味である……じゃねーよ! しれっと座るんじゃねぇ! って、おい! 俺の分食うな!」
「ぶははは!! よいではないか、減るもんじゃあるまいに」
「減ってんだよ! 物理的に!」
二人のやり取りを眺めながら平和だなぁと思っているとルキが僕の余っているケーキを見つめているのを気づく。
「食べる?」
「いいの! たべたい!」
ケーキを前に置くと早速頬張るルキ。食べ方がハムスターみたいで可愛いな。
ルキの頬にクリームが付いているのに気が付き手で拭い取って上げていると、夏樹は席を立ち上がり刀を抜き、切っ先をメフィストに向けている。
「ここで叩き斬ってやる……!」
「やってみるか勇者よ! ぶははは!!」
二人の視線――一人は仮面だけど――が交わり火花が散っているよう見える。
二人が騒いでいるせいで周りの人達の視線が集まってきた。他所でやってほしんだが……
その時、立ち上がったメフィストの後ろに見知らぬ人物が近づく。
「メフィスト殿、お時間ですぞ」
杖を突いた、シルクハットを被っているダンディな男性。初めて会う人だけど、その声は聞き覚えがあった。僕は警戒して武器を構える。
「武器を下ろすのだ勇者よ。そう警戒するな、ぶははは!!」
そんな僕に武器を下ろすよう言うメフィスト。だけど、僕は首を横に振った。
「見た目は違うけど、そいつ……シャックスだよな?」
クロウカシスの上空で戦ったシャックスだと、僕はメフィストに問う。
「一発で正体を見破るとは見事だ! ぶははは!!」
「褒められても嬉しくないんだけど。てか、あっさり認めるんだな」
「こ奴は今、我と同じく傍観の身だ。故に正体が暴かれても問題ないのだ」
「メフィスト殿、そろそろ」
「おお、そうだな。では、さらばだ! ぶははは!!」
メフィストは身を翻して人混みの中に消えていく。僕達に一礼してからシャックスもメフィストの後を追い駆けていく。
これ以上目立つはまずいと思い僕達も急いでその場から離れ、入り組んだ道を進み、人通りが少なくなったのを確認してくるから屋敷に転移する。大広間のふかふかのソファーに僕と夏樹は沈むように座る。ルキも真似して僕と夏樹の間に座る。
「疲れた……」
「あはは……ね」
「一旦ログアウトするわ。ヴェスナー達には俺から伝えとくよ。兄貴はどうする?」
そう尋ねながら夏樹は手を動かす。
「うーん、僕もログアウトするよ」
「了解。……よし、四人に送った。んじゃお先ー」
そう言って僕の隣にいた夏樹は消える。
「ルキ、またあとで来るね」
「うん! まってるね!」
ルキに微笑み頭を撫でた後も僕もログアウトした。
床に敷いた布団で横になっているクシュとヘストを踏まないように部屋を出て居間に行くと、母親が料理を作っていて、父親がテレビを見ていた。夏樹の姿はなかった。部屋にいるのかな?
「おかえり。なんか手伝う……作り過ぎじゃない?」
母親の下に行くとから揚げやコロッケ、天ぷらなど色んな揚げ物が皿の上で山盛りになっているのを視界に入る。
「育ち盛りだし、寧ろ……足りないんじゃないかしら?」
「どうかな」
「私とお父さんはこっちのテーブルで食べるから、亜樹達は大きい方のテーブル使ってちょうだい」
「わかった。もう料理運んでもいい?」
「ええ、お願いね」
そうして準備を進めていると、階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。
「すいません! 遅くなりました!」
「陽がもたもたするから」
「俺も悪かったと思うけども、楓がお店からなかなか出て来なかったのも原因だからな!」
「そうっすね、それがなければもう少し……って痛っ! 暴力反対っすよ!」
「史季、蹴る……」
「もう蹴ってるすよ!」
「はい、そこまで。皆手を洗って」
そう言うと四人は返事をして洗面所に向かった。入れ替わりで夏樹が入ってくる。
「賑やかだね」
「そうだな、夏樹も行きな」
「はーい」
夏樹達が戻ってきてそれぞの席についてから食事を始めた。




