第123話
ナハルヴァラの観光は休みの日にすることになり、平日の今夜もルキと遊ぶことにした。
速めに帰ったから今夜は沢山遊べるぞー。
ちなみに夏樹とアカネさんは大会に向けてダンジョンに潜っている。
僕はルキを連れて庭に出ると、夜空には満月が浮かんでいた。
「ルキ、今日はなにしようか」
「うーん。うみのまちにいきたい!」
街かー。ルキが行きたいならまぁいいか。
「わかった。行こっか」
「うん!」
ルキは僕の手を掴み引っ張っていく。
ハウジングエリアを離れ街に着いた僕達は出店を巡りながら散策した。
「あれも食べたい!」
何店舗めになるのか分からないぐらい食べ歩きしているのにルキは今度はカラフルに彩られているチョコバナナを指さす。こんな小さいのによくお腹に入るな。
「わかった」
そろそろ限界を感じた僕は一本だけ買ってルキに渡す。
「ウィルのは?」
「僕はいいかな。ちょっとお腹いっぱいだから」
「そうなんだ。はむはむ……おいしい!」
頬にチョコを付けてルキは美味しいそうに食べる。
僕は指でチョコを拭き取り手を繋いで散策を続ける。
しばらく歩くとルキはお店の前で足を止めショーウインドウに釘付けになる。気になって僕も覗き込みルキの視線の先を辿るとピンク色の蝶をモチーフにした髪飾りを見ているようだ。欲しいのかな? 金額は……うん。買える範囲だな。
「ルキ、お店に入るよ」
ショーウインドウに釘付けになっているルキを呼び店内に入る。
「うわああ、すごーい! かわいい!」
お店に入ると色鮮やかで様々な形のアクセに目を引かれ興奮するルキ。
ルキが他の商品を見ている間に僕はレジの前で立っている店員に話しかけ持ってきてもらい、お金を払い受け取る。
「あれ? ちょうちょうの、なくなってる……」
僕の下に行くとさっきまで見ていた髪飾りが無くなってルキは少し落ち込んでいた。
そんなルキの頭を僕は撫でる。
「ルキにプレゼント」
きょとんとしているルキの白い髪に髪飾りを付けてスタンドミラーの前に移動する。
「え? え! これ! ちょうちょう! うわあああ……」
髪飾りを外し両手で大事に持って嬉しそうに眺めるルキ。
「ウィル、もういっかい、つけて!」
「はいはい」
ルキから髪飾りを受け取り同じところに付けてあげる。
「にあう?」
「可愛いよ」
「えへへ、ありがとうウィル!」
ルキはぎゅっと抱き着いてお礼を言う。
僕達はお店を出て、大通りを抜け、人がほとんどいない噴水広場で休憩することにした。
僕がベンチに座ると、ルキは膝の上に座る。
「ウィリアムさん?」
夜空を見ていると名前を呼ばれ顔を向けるとそこにはアイリスさんがいた。
「ルキちゃんもこんばんは」
「アイだ!」
ルキは立ち上がりアイリスさんに駆け寄り手を握るとぐるぐると回り出した。どっかで見たな。
しばらくすると目を回したアイリスさんは地面に座り込んでしまった。僕は急いで駆け寄った。
「ルキ、やり過ぎだよ。アイリスさん大丈夫ですか?」
「え、えぇ……」
僕は手を差し出すとアイリスさんは手を掴み立ち上がる。足がおぼつかない様子のアイリスさんを支えベンチに座らせる。
「ありがとうございます、ウィリアム」
「いえいえ。ルキ、アイリスさん謝る」
「ごめんなさい……」
「気にしないでルキちゃん。私なら大丈夫だから、ね?」
微笑んでルキの頭を優しく撫でるアイリスさん。
「ルキちゃん、その髪飾り可愛いね。似合っているよ!」
「ほんとー! これね、ウィルにもらったの!」
「よかったね!」
「うん!」
アイリスさんの隣に座ってお互いに色んな事を話していると寝息が聞こえてくる。
「ルキちゃん眠ったようですね」
「ですね、じゃあそろそろ帰ろうと思います」
ルキを抱き上げインベントリから転移結晶のアイテムを取り出す。
「……ウィリアムさん、一緒に帰りませんか?」
「構いませんよ~」
ハウジングもそこまで近くは無いけども同じエリアだ。断る理由もなかったので承諾した。
「じゃあ私が転移結晶のアイテム使いますね?」
「え、あーはい。お願いします」
視界が暗転してアイリスさんと一緒に《蜜柑の園》のハウジングの前に転移する。
「それじゃおやすみなさい、アイリスさん」
「おやすみなさい」
アイリスさんに軽く会釈してから《蜜柑の園》のハウジングを後にする。
夜空の浮かぶ満月を背に、屋敷に続く坂道を進み、屋敷に帰宅した。




