第120話
「兄貴油断し過ぎだよ~」
刀を納めて頭の後ろで手を組みながら夏樹が近付いてくる。
「あはは……死ぬかと思ったよ。助かったよ夏樹。それと、アカネさんも来てくれてありがとうございます」
少し遅れて来アるカネさんに僕はお礼を伝える。
「感謝してよね? 最後に止め刺したの私だからドロップアイテムは六対四でいいかしら?」
「は?! ふざけんな! あそこまで削ったのは兄貴だろうが!」
「二人とも言い争いは後にして……あれ? 夏樹、ルキはどうしたの?」
僕がそう言うと言い争いをしていた夏樹の動きが止まった。
「ドロップアイテムの話はあとにして急いで戻ろう。夏樹はあとで説教だからな?」
「はい……」
僕はゲンブとビャッコを戻してセイリュウを召喚して、セイリュウに乗り急いで幌馬車に向かった。
「ウィルだ!」
車内から外を見ているルキと目が合い手を振ると、ルキは幌馬車から降り僕の方に駆けだす。
僕は止まり飛び込んでくるルキを受け止めた。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
笑顔で迎えてくれたルキの頭を僕は優しく撫でる。
「ルキね、ちゃんとまもったよ!」
「よしよし」
「ご無事でよかった……! 」
ルキと話していると御者の人が駆け寄ってきた。
「なんとか皆と協力して倒せました。そちらは大丈夫でしたか?」
「ええ、皆様のおかげです。ありがとうございました」
御者の人は深く頭を下げる。
「まだお礼を言うのは早いわよ? 護衛依頼は街まで、ていうことはまだ達成してないわ。お礼を言うなら達成したらよ」
「確かにそうですね。後少しですがよろしくお願いします」
もう一度頭を下げて御者の人は幌馬車に戻っていく。
僕達も幌馬車に乗り込むと乗客達から拍手喝采を浴びた。
グラディウスさん達の姿が見当たらず僕は御者の人に聞くと、依頼を放棄することで違約金を払って去っていったそうだ。グラディウスさん……
御者の人の掛け声で幌馬車はナハルヴァラに向かって進みだした。
街の方から沢山のプレイヤー達が押し寄せてきて、かなり変わってしまった砂漠に驚愕している。
「兄貴、ゴッドクラスってやばいね~」
「あはは……あれって元に戻ると思う?」
「うーん、一日経てば戻ると思うけど、その間に拡散されるっしょ」
「だよね……はぁ……」
気が重くなって溜息を溢す。
「良いこと思いついたわ! デスワームのドロップアイテムはあなた達に譲るわ。その代わりに私をクランに入れて頂戴!」
最初に断ったはずなのにこの人は諦めてなかったのかと思うと苦笑してしまった。
「もう一度言いますけど、入れる気はないです。クランに入らなくてもまた遊ぶ約束したじゃないですか? なんでそこまで僕達のクランに入りたいんですか?」
「なんでって、そりゃあ面白そうだからよ?」
意外と単純な理由だ、と思っていると私ね、とアカネさんが続ける。
「色んなクランに入っては合わなくて抜けるのを繰り返しているのよ。《究極召喚師団》にだって所属していたことあるんだからね」
「《究極召喚師団》ってフーディアさんのところの?」
「そうそう。あそこは堅くて合わなかったわ。あなた達のところは自由そうだし、楽しそうでしょ? 権限とかなくていいからさ、仮でもいいから入れて! お願いします!」
黙って聞いていた夏樹が口を開ける。
「……仮でいいなら俺は構わないよ、兄貴」
「夏樹がいいなら」
そう言うとアカネさんは目を輝けせる。
「本当に! ありがとう! これからよろしくね!」
「よろしくお願いします」
僕はアカネさんと握手を交わす。夏樹も握手をするも仏頂面だ。
アカネさんは夏樹の隣に座り僕に聞こえない声で耳打ちすると、夏樹は赤面してアカネさんに怒鳴った。一体の何会話したんだか。
そうこうしているうちに幌馬車は拠点の街の一つナハルヴァラのに到着した。




