第119話
デスワームの命令で眷属が幌馬車に迫ってくる。デスワームはアーチの前に居座って動こうとしない。
アーチからどんどん遠ざかっていく。それに、馬の速度が落ち始めている気がする。
さっきから走りっぱなしだから馬も疲れてきたんだろう。時間もないか。
「兄貴、このままじゃ眷属に追い付かれる!」
「分かってる」
僕はセイリュウを戻してMPを半分消費してビャッコを召喚した。リングでMPは回復するけど時間内のでHMPポーションで全回復させる。
「あなた、三体も召喚獣を契約していたのね。二体まで契約しているプレイヤーは見たことるあるけど、初めて見るわ」
フロストと既に一対になっているアカネさんが呟く。
「まぁそれは置いといて、その子を出した理由を聞いてもいいかしら?」
僕はビャッコの頭を撫で答えた。
「こいつは土属性の魔法を扱えます。ここは砂場だけど、一応こいつのテリトリー内。なんとか道を作るから夏樹とアカネさんには幌馬車の護衛をお願いします」
「私は構わないけど……無茶じゃない?」
アカネさんは呆れながら言う。
「あはは……確かに無茶だと思います。でも、これしかないと思うんです。アーチを潜ったのを確認したら」
僕はピアスを指さす。
「このピアスで夏樹の所に転移出来るんで僕も逃げます」
デスワームを倒すが目的ではない。乗客達を守り切るのが最重要事項だ。
「転移結晶のアイテムを使わないで転移できる代物まで持っているなんて……あなた達、いや、特にウィリアムだけど、非常識ってよく言われないかしら?」
「そ、そんなことよりもあとお願いします。ルキ、夏樹と居てね?」
ついてきそうな気がしてルキに釘を刺しておく。流石に今回はルキまで守れる気がしないからだ。
「うん、ナツといる! だから……かえってきてね?」
素直に言うことを聞くルキに僕は目を開くがすぐに目を薄めルキの頭を撫でる。
「おう」
僕は幌馬車の後ろから飛び降り砂の上を数回転がり着地する。ビャッコも後を追い駆けて僕の隣に並ぶ。器用に水を操ってゲンブも僕の隣降り立った。
砂煙を立てながら迫りくる沢山の眷属に足が引きそうになる。
両頬を叩き奮い立たせて視線を上げた。
「ゲンブ、ビャッコ。行くよ」
ゲンブとビャッコは強く返事をする。
「【四神の領域・海嘯】【大地】」
MPをかなり消費して四神の領域を二つ唱えると土砂を含んだ津波が生まれ眷属を押し流していく。
今度は操作魔法を使い砂を固め道を作る。幌馬車に駆け寄っていく眷属にゲンブは水の槍を、ビャッコは岩の拳を放ち牽制する。それも近付いてきた眷属を夏樹とアカネさんが対処する。あっちは問題ないようだ。
その時、アーチの前で居座っていたデスワームが地響きを起こしながら動き出し幌馬車に向かっていく。
砂を固めて巨体なデスワームより大きい壁を目の前に生成する。だけど、デスワームは砂壁を壊しながら直進していく。
「ビャッコ!」
「ガオォォォォーー!」
ビャッコは一段と強い光を放つと激しく地面が揺れると大地が盛り上がっていきデスワームを浮かせた。砂で埋まっていた部分も曝け出すデスワーム。何が起こったのか理解できない様で戸惑って動きが止まっている。眷属も巻き込まれ打ち上げられた若干気持ち悪い光景が広がっていた。
ビャッコが使ったのは【神獣の一撃・震】。大地を隆起させるだけのスキルだけど、砂の中で隠れるこいつらには有効だ。
その間に、幌馬車はアーチを潜って安全圏に入っていくのを確認した。よし、あとはピアスを使って転移をすれば――
「ガメェェーーー!」
突然ゲンブも強い光を放つと、夕空を隠すように暗い雲が広がって行き、バケツをひっくり返したような豪雨が降る。
凄い勢いの水が迫ってくる時、溺れない高さまで大地を盛り上げ僕は押し流されず済んだ。
「ゲンブ……?」
ジト目で見るとゲンブは視線を逸らした。ついでに尻尾の蛇も目を逸らす。こいつら……。
まさか、ゲンブが【神獣の一撃・瀑布】を使うとは思わなかった。
立ち上がり様子を見回すと勢いに耐えきれず押し流され眷属は落下していく。そして、高所から落ちたせいでHPが無くなり倒れていく。おかげで、物凄い勢いで熟練度が上がってんな。
あれ? デスワームの姿が無い。あの図体で押し流されたか?
「キシャアアアアアアア!」
「!?」
僕の背後に奇声を発しながらデスワームは姿を現した。やばい、油断した!
「兄貴に触れるんじゃねーーー! 【八重葎・火地】!」
上空から夏樹の声がすると思ったら、そのままデスワームの頭部に着地すると得物を突き刺した。頭部に刺した刀から尻尾に掛けて火を纏った石の棘がデスワームの内側から突き出る。
「凍てつきなさい【フロストインパクト】!」
デスワームのすぐ近くに現れたアカネさん目にも止まらない速さで殴ると、そこから凍り始め、やがて、デスワームの全身を凍り付かせた。デスワームのHPは無くなり、ドロップアイテムを残し今度こそ消滅した。




